元日の新聞に載った、

着物姿の女性を見て、

一瞬これは誰だ?と思いました。

それが「光る君へ」の記事である以上、

主演の吉高由里子だということはすぐに分かりました。

平安朝の貴族階級の女性といえば

長い髪を両側に垂らして額を見せる、

ストレート伸ばしっぱなしの髪型と決まっています。

それがなんか似合ってないなーという感じだったわけです。

トリスのコマーシャルに出ている吉高さんを見てみると、

まひろほど長くはないにしてもやはりロングヘアーですが、

軽くウェーブがかかって自然な感じです。

例の写真はナチュラル感がなくて

妙におでこが強調されたような印象を受けてしまったようです。

放送が回を重ねるうちに微妙な変化があったようです。

ネットで適当に画像を拾って気がついたことあれこれ。
 

子供時代のまひろはツインテールでした。
 

五節の舞姫姿―独特の冠をつけて、

額のあたりが一番よく露出しています。

舞台用の厚化粧ですが、とても美しかった。

放送では一瞬だったのがもったいない。

そうとう手間暇、技術にお金がかかっているんでしょう。

前から見ると頬のあたりまで

両側に一房の髪が垂れていて、

髪が短くなったのかと思うと後ろで髪をまとめているまひろ。
 

寝るときなどは髪をまとめていたようです。

皆同じ髪型をしている中で、

イケてると判断されるのはどんな髪なのでしょう?

思い当たるのは、時代は下りますが、

「建礼門院右京大夫集 八十一 こころそめし山のもみぢ」、です。
 

(…)小宰相殿といひし人の、

鬢額(びんひたい)のかかりまで、

ことに目とまりしを、

年ごろ心かけていいける人の、

通盛(みちもり)の朝臣に取られて、

嘆くと聞きし、

げに思ふもことわりと覚えしかば、

その人のもとへ、
 

さこそげに君嘆くらめ

心そめし山のもみぢを人に折られて

(訳)

小宰相殿といった人が、

鬢や額の形まで、特に目がとまったが

長年彼女に思いをかけて求愛していた人が、

通盛朝臣に彼女を取られて嘆いていると聞いて、

まことにそのように思うのももっともだと思われたので、

その人のもとへ言い送った。

本当にさぞかしお嘆きでしょう。

心にそめられた山のもみじ

―お見そめになられた小宰相の君―

を他の人に折られて**

能がお好きなら「通盛」をご存じでしょう。

通盛と小宰相は

プリンスと噂の美女というゴールデンカップルという感じだったのに…

実は、ふられ男が建礼門院右京大夫のおかげで

文学作品の中に場所を得たのが面白くて、

このエピソードを紹介したかったんです。
 

だいぶ脱線しましたが、

「鬢額のかかりまで」の「かかり」は

「女性の髪の肩に垂れ下がったようす。

また、その下がりぐあい。***」です。

髪型を選べないとなると、

額の形と髪のかかりぐあい、ぐらいですか。

髪そのものの美しさというものもあるでしょうが、

天然パーマだったらどうしたんでしょう。

髪質という点からは、

清少納言がくせ毛だったということが思い出されます。

毎朝しっかり髪を梳かなければいけなかったでしょうが、

失敗したこともありました。
                             
「枕草子」には髪の手入れがらみのエピソードがあります。

定子が出産のため引っ越しをしたとき、

清少納言たち女房も牛車で移動しました。

ところが門が小さすぎで牛車が通れず、

筵をひいてその上を歩いて御殿に入ることになりました。

殿上人や小役人にジロジロ眺められるのが

腹が立ってしかたがなかった清少納言。

定子に言いつけると

「ここにても見るまじうやは。

などかはさもうちつけつる

(ここに来たからといって、

人に見られないということはないでしょう。

髪も梳かないなんて、

どうしてそこまで油断したことかしらね)*」

とお笑いになる(「枕草子 第六段」)。

女優陣はみな同じ髪型なので

似合う人そうでない人がでてくるわけですが。
私がどうかならないのかと思ったのは、

黒木華さんです。

演技力のせいか、背が高くスタイルがよいせいか、

顔の造作以上に魅力のある女優さんだとは思いはします。

しかし、源倫子を始めて見たときは、

どうしようもなさを感じました。

かつかつ140キロの球しか投げられないプロのピッチャーが

変化球を投げるなといわれてしまったときのような。

この喩え、分かりにくいでしょうか。

女性の魅力の中で

美しさはピッチャーの球速のようなものと常々考えてきました。

美しさという要素は一番客観的で、

なんなら数値化もできそう。

でも一番速い球を投げるピッチャーが

最多勝投手になるかというとそうでもない…

ついでにヴィジュアル的にがっかりしたキャストは

道綱の母:本朝三美人のひとりのはず。

     理想のキャストは檀れいさん。
 

清少納言:予備校の講師が一番会ってみたいのは清少納言、

     と言っていたのをよく覚えています。

     同感。

     「清」つながりで清原果耶さん。

     もしくは、清少納言の方が年上らしいので、

     吉高さんと年齢的に近く、

     女優としてもほぼ同格という点からは、

     長澤まさみさん。

*山本淳子「枕草子のたくらみ」

(朝日新聞出版 2017年)214~215頁より。
 **小学館新編古典文学全集

「建礼門院右京大夫 とはずかたり」久保田淳訳
***電子版「旺文社全訳古語辞典」