もう一人の注目の監督は常間地裕(つねまちひろし)さん。

「朝をさがして」と「記憶の居所」の

二本立てでした(Uplink 京都)。

偶然にもどちらも54分。
 

高野徹監督の「マリの話」は60分。

「二十代の夏」は42分ですが、

70分を再編集して短縮したときには

監督は劇場公開を諦めかけたとか。

二本立てというのも一つの策ですね。

 「朝をさがして」は

YouTubeドラマ「東京彼女」シリーズ第7弾を

再構成したものだそうです。

ポスト・パンデミックの時代に生きる若者たちのストーリーは

  CAになるという夢を諦めた美琴(SUMIRE)は

  不動産屋の仲介スタッフとして働いている。

  同棲中の恋人・正紀(宇佐卓真)とは倦怠期。

  下町の定食屋で働く幼馴染の遼太郎(秋元龍太朗)と、

  毎週水曜日の20時に近所 の公園で1時間だけ会うようになる。

  やがて美琴はある決断をする。

桜が咲く夜の公園で

美琴と遼太郎がビ-ル片手に語り合うシーンはなかなか魅力的でした。

が、遼太郎が結婚すると告げることで、

水曜ごとの飲み会も終わります。

そのとき、桜はすっかり葉桜になっていたのが、

遼太郎、婚約者、琴美の三人でビールを飲むシーンでは

桜が咲いていたのが気になりました。

時間が逆行?翌年の桜だとすると時間が空きすぎるし。

まあこちらの勘違いかもしれませんが、

再構成の都合で仕方なくああなったのかなと思いました。

 

表面上はなごやかなシーンですが、

パンフレットの鼎談(以下参照)で山下リオさんは

「あれ地獄ですよね!しかも横並びで」

と発言されています。

桜の花が気になって地獄に気がつきませんでした。

「記憶の居所」は

「味の話」、

「香りの話」、

「音の話」という三編からなっています。

一番時間的に長い「味の話」は

 死に慣れてしまった看護師の唄(山下リオ)は

 仲が悪かった義理の母が亡くなったと聞き、故郷に帰ります。

 しかし、母が生きていることに偶然唄は気づきます。

 どうして嘘をついたのかと、兄に詰め寄りますが、

 とりあえす食事になります。

 兄が作ってくれた卵焼きは

 高校生のころ弁当に入っていたものとは味が違います。

 実は、母は「唄は私が作ったものは食べないから」と

 兄が作ったことにされていたのでした。

自転車を押しながら唄が後輩の看護師としゃべりながら歩くシーン。

兄の運転する軽トラックに乗って、

教授という名の柴犬を抱きながら、

唄が兄と言葉を交わすユーモラスなシーン。

唄が誰かも分からなくなった認知症の母と

話しながら歩道を歩いて行く二人。

カメラは留まってその姿がだんだん小さくなって行くのを写し続けます。

 

さまざまに撮り方を変えながら移動中の会話が何度か描かれていました。

味の記憶を呼び覚ます食事のシーンが、

移動と移動の狭間におかれています。

過去の味と現在の味の差異は、認識を揺るがせ、真実へと、

母親との関係を修復することへとつながって行きます。

シンプルであるだけにストーリーラインに強い必然性が感じられます。

見終わって、じわーっとあたたかい気持ちになれる作品です、

 山下リオさんの主演作ということで

これは見逃せないと思ったのですが、

髪が腰に届きそうなくらい長くなってたんですね。

十代の頃は長い髪の美少女の典型という感じでした。

思い切って短くされたときは一瞬誰か分かりませんでしたが。

巷ではグラビアが反響を呼んでいるようですが、

これだけルックスがいいのに

グラビア関係の展開があまりなかったのが不思議な感じもします。

髪が長かった頃主演作が幾つかあったはず。

長い髪とともに主演が戻ってきたなら、

この際ドーンとブレイクしてもらいたいです。

「香りの話」は美術館で知り合った

若い男(サツヒロキ)と女(橘舞衣)がプロヴァンスを目ざして

オープンカーを飛ばして行く月夜の物語。

男は文学的なナレーションを続けます。

ワープロを打っているシーンが出てくることもあり、

すべて月夜の夢かとも思えます。

「音の記憶」で描かれるのは、

ピアノでまだ名前のない曲を弾く少女と、

それを熱く見つめるもう一人の少女。

ストーリーは 始まるまえに途切れてしまいます。

モノクロームであることからも、

記憶の中のワンシーンという意味合いで

「音の記憶」というタイトルになったのでしょうか。

 

 


三つのストーリーに何かつながりがあるとすれば何でしょうか?

パンフレットの「作品・作家小論」で森直人氏は、

唄が音大志望だったようで、

実家にピアノが置いてあった、ということを指摘しています。
もう一度じっくり見て考えなければ分かりません。

そういえば「香りの話」の香りは何だったんだろう。

冒頭のおでん屋と関係があったかな?

 「記憶の居所」と「朝をさがして」両作品のためのパンフレットを購入しました。

文庫本ほどのサイズで30頁、税込み880円は

正直高すぎると思ったのですが、

映画を応援する気持ちをこめて買いました。

帰りの電車の中で開いてみると8枚の写真が挟み込まれていました。

ぺらぺらの普通の紙に印刷したカラー写真。

さすがにあの小ささで880円は高すぎると

あとから追加したのでしょうか?

A5判くらいでカラー写真が印刷されたごく一般的なパンフレットにすると

コストがかかりすぎるのでしょうか?

小さくてカワイイと注目して欲しかったのでしょうか?

本物の生写真を2枚くらい付けた方がまだ有り難みがあるように思います。

小さな写真カードを挟み込むのもけっこう手間なんじゃないでしょうか。

あまりにも変わったスタイルですが、

内容はSUMIRE×山下リオ×常間地裕監督の

特別鼎談等ごく尋常なものでした。