「さよなら マエストロ」もよかったけれど、

この冬一番好きだったドラマは「春になったら」でした。

「春になったら」は

余命三ヶ月の父(木梨憲武)と

売れないお笑い芸人と結婚しようとする娘(奈緒)の三ヶ月の物語です。
 

最終回が始まる前、テレビをつけて夕食を作りかけていると、

奈緒さんがこのドラマへの思いを語っていました。
 

「私は七ヶ月で父を失いました。

父との思い出がありません。

お父さんと一緒にお酒飲みたかった。

お父さんとケンカしたかった。

そんな私の夢を『春になったら』の中でかなえていただきました」

「春になったら」は一種の難病ものなわけですが、

ドラマ以上に奈緒さんのコメントが泣かせます。
翌日あれは「FNSドラマ対抗お宝映像アワード!」だったなと

録画した番組を早送りして確認しようとしましたが

どうしても見つかりません。

寝ぼけて夢でも見ていたのか、

と思うほどよく出来たコメントでした。

その後カンテレのサイトで同様のより詳しいコメントを見つけました。

https://www.ktv.jp/haruninattara/topics/t38.html

私は5歳で父母が離婚し、

父が家を出て行きましたが、

父のいい思い出が少し残っています。

奈緒さんは本当にお気の毒だと思います。

瞳を演じられてよかったですね。

奈緒さんの主演ドラマの中でも

本作は最高の出来だと思います。

難病というモチーフをリアルさを失わず、

できるだけ明るく軽みを失わず描くという

難しい舵取りがみごとにできていました。

 

監督のひとりが松本佳奈さんです。

瞳が務めている助産院長が小林聡美さんですが、

映画「マザーウォーター」、ドラマ「パンとスープとネコ日和」など

松本作品に主演されています。

小林さんの揺るがない自然体が

ドラマの一方の門口をしっかり守っていました。

瞳が家を出て少し行くと赤い鳥居が現れます。

もんじゃ屋のシーンとか、

なんとなく下町情緒が感じられます。

昭和のドラマで下町情緒はおなじみのものでしたが、

それほどくどくはなく、

ほんのり温かい雰囲気がドラマをくるんでいたのもいいところでした。。

全体を振り返ると

結婚と生命の誕生の現場という生の側と

避けようのない死へ向かう流れとを

対置させるというのが基本設計でした。

 

最終話で結婚式と父雅彦のお別れの会をまとめて

「旅立ちの式」が開かれます。

結婚といういう形での旅立ちとこの世からの旅立ちと。

常識的にはありえないこの式は

基本設計からの必然的な帰結ともいえましょう。

式が終わってから瞳と雅彦が桜を見るというシーンがあって、

次は葬儀の終わったあとまでとびます。

瞳は伯母からDVDを渡されます。

それは瞳を生もうとしている母を写したものでした。

必死に頑張る母とどうすればいいかわからずとまどう父の声。

しかし突然とぎれてしまって、

「私写ってないじゃん」と涙ながらに苦笑する瞳。

生命の誕生というモチーフを

最後まできっちりと描ききりました。

泣き笑いというトーン―バランス感覚は最後までいきていました。
 

 

 

 

 

このすばらしい脚本を書かれたのは福田靖さんでした。

使い古された臨終の場面を避けたため、

父と娘で桜を見たシーンが、

あとでいっそう切なく感じられました。