恋に落ちたシェイクスピア」(1998年)以来

グイネス・パルトロウの映画はわりとよく見に行った。

あの頃は今ほど映画を見なかったし、

外国の女優といえば

マリリン・モンローやグレース・ケリーくらいしか浮かんでこなかった。

まあ今もそれほど変わらないが。

 

グイネス・パルトロウはたんに美人だというだけでなく、

顔に浮かんだ繊細な表情にぐっとくるものがあった。

何本か見たグイネスの主演作の中で

1番印象的だったのは「シルヴィア」だ。

シルヴィア・プラスの半生を描いた伝記映画である。

日本公開は2004年の暮れだった。

1956年シルヴィアはケンブリッジ大学に入学し、

テッド・ヒューズと知り合い結婚する。

詩人同士の結婚になるわけだが、

出産、子育てを任される女の方が不利である。

詳しいストーリーは忘れたが、

夫の浮気相手が妊娠し

夫婦関係が修復できない事態に陥ってしまう。

最期の朝、シルヴィアは

幼い子どものためにパンにバターを塗り、

ガスオーブンに頭を突っ込んでスイッチを入れ、

自殺を遂げる。

幕切れはあまりにショッキングだった。

近くの席で見ていた女性がすすり泣いていた。

自伝的小説だというので、

ぼくは映画を見る前にシルヴィア・プラスの The Bell Jarを読んだ。

小説にはヒロインが自殺未遂をするエピソードがある。

映画の予習にはならなかったが、

映画を見て、

やはりシルヴィアは死にいたる病にとりつかれていたのかと思った。

 

子どものパンにバターを塗るという母親らしい行為のすぐ後で、

同じキッチンにあるガスオーブンで自殺するというシーンは、

どんなホラーにも描けない怖さで

心の深淵をかいま見せていた。


The Bell Jarはガールズ版「ライ麦畑」と呼ぶ人もいたそうだ。

50年代の早熟で繊細な少女の内面を描いた作である。

英語はとても読みやすい。

amazonで検索すると、

青柳祐美子訳「ベル・ジャー」の古本が

99,999円というぼったくり価格になっていた。

2004年6月刊とのことなので

映画を当て込んだ出版だったようだ。

古本屋を儲けさすより英語で読んでみてはいかが。

皆見昭訳「シルヴィア・プラス詩集」

という古本が手に入ったので、

邦訳の詩の原詩を

The Collected Poems (P.S.) (Harper Perennial Modern Classics)

から探して読んでいった。


シルヴィアの詩は実に多彩で、

長い詩は短編小説にしたてられそうなものもある。

エミリー・ディキンソンに比べれば

ずっと素直な書きぶりなのだが、

皆見氏の解説には

エミリー・ディキンソンの影響が顕著だと書いてある。

韻律の技巧と、

死を主題にし、

死に積極的な意味を与えたことなどが

共通点としてあげられている。 
 

好きな詩を一つあげるなら「ローレライ」。

その最後は

O river, I see drifting

Deep in your flux of silver
Those great goddesses of peace.
Stone, Stone, ferry me down there.

drift : 漂流する  
flux : 流れ
ferry : 舟で渡す


おお、川よ、漂っているのが見える

銀の流れの底深く
あの偉大な平和の女神たちが。
石よ、石よ、私をそこまで連れて行け。

ローレライたちに会うために

石を抱いて入水自殺しようというのだろうか。
詩を読んだ後、

そんなことも考えず、

よくのんきに最後の一行を唱えていた。
Stone, Stone, ferry me down there.
呪文のようで調子がよく、

ferryという動詞をつかっているのが面白かったのである。

 ベル・ジャー」はシルヴィア唯一の長編小説だが、

短編は幾つもあって、

その中には子どものために書いたものもある。

子ども向きの短編を2編よんだだけだが、

おもしろかった。

子供たちに読んで聞かせることもあったろう。

シルヴィア・プラスは

小説家としてもまだまだ将来があったはずだと思う。
 

散文の作品集

Johnny Panic and Bible of Dreams, Harper Perennial Modern Classics, 1952 は

積ん読になってしまっているが、

積ん読仲間はもう1冊ある。

The unabridged Journals of Sylvia Plath、Anchor Books, 2000。

シルヴィア・プラスの日記である。

表紙のシルヴィアは明るい表情で

自分の左にいる誰かを見ている。

誰かがカーネーションのような花を差し出している。

今あらためて見ると

それほど美人に撮れていないこの写真に

なぜかひかれて買ってしまったのだった。

ジャケ写買いもいいところである。

いつ読めるのやら。

 

 

 

 

 

 

洋書を読み出せばいくら寿命が長くても追いつかない。