ロームシアター京都で

小澤征爾音楽塾「コジファン・トゥッテ」を見てきました。

例年この季節にロームシアターで

質の高いオペラが見られるのは幸いなことです。

昨年はチケット代をケチって2階のサイドの席にしたところ、

鉄柵のようなものが2本視野を横切っていたため、

そのままだと歌手を柵越しに見るようになってしまいました。

頭を下げてうまく調節すると

2本の横棒の間に歌手がスポッと収まるのですが、

ずっとその姿勢を続けるとむち打ち症になりそうでした。

それで今年は19000円払って、

1階の後ろから3列目で左端の席を予約購入しました。

当日窓口で発見してもらう方式にすると、

ぴあなどでとられるわけの分からない手数料を払わずにすみます。

当日雨が降っていたので

 

 

 

地下鉄東山駅から歩くことにしました。

ところが、意外と時間がかかりました。

若干焦り気味で入場したので、

クロークにコートを預けるのを忘れてしまいました。

さてマエストロが登場し、

一礼し拍手に答えてオケの方を向いてもすぐには始まりません。

もう一度マエストロは客席の方を向いて、何か言うと、

小さな拍手が起こり、演奏が始まりました。

でもコジの序曲じゃない。

たぶん近頃亡くなられた

小澤征爾氏を追悼する曲なのだろうと見当をつけて

知らない曲に耳を傾けました。

弦楽合奏の静かな曲です。

 

第一部の終了時間が15分ほど遅くなっていたので

その程度の時間続いたのでしょう。

休憩時間にフォワイエをぶらついていると

「献奏曲 モーツァルト ディベルティメント ニ長調 k.136 第二楽章」

という掲示が出ていました。

なぜこの曲なのかなと思って

翌日ネットで検索したら、

Youtubeで小澤さんがサイトウキネンオーケストラを指揮した演奏が出てきました。

献奏曲に選ばれたことと関係あるかどうか分かりませんが。

1987年9月11日、

ベルリンフィルハーモニー コンサートホールでのライブ映像です。

サイトウキネンオーケストラが

ベルリンフィルの本拠地で演奏したとは知りませんでした。

ロームシアターで感じたのはこの曲はちょっと長すぎるし、

モーツァルトなら「フリーメーソンの葬送の音楽」の方が

始まった瞬間ハートをつかむ切ない名曲なのにな、

と思っていました。

家に帰ってあらためてYoutubeでK.136を聞いていると、

さわやかで控えめな佇まいに、

涙痕を吹く東風のようなものを感じ、

静かな悲しみを感じました。

オペラは一言で言うと、

まさに「こんなコジが見たかった!」です。

ディヴィッド・ニースの演出はいまどき珍しいくらい、

ごくオーソドックスなものでした。

衣裳、舞台装置とも趣味のいいもので、

かなり制作費がかかっているのではないでしょうか。

登場人物は十八世紀の人物らしい衣裳で、

舞台前全面に広がる風景画はクロード・ロランか、

サルヴァトール・ローザかといった感じです。

遠く見えるヴェスヴィオ山が

ナポリ風景だと告げています。 

その後恋人たちが船出するシーンでは

美しい空と海、といった具合に自然を感じさせる背景から、

ハンペ演出のロッシーニのオペラで見た

イタリアの青空を思い出しました。

後半の暗くなった庭で

召使いたちがそれぞれ明かりを持って円を描いて歩んで行くシーンなどは

印象に残る美しい情景でした。


歌手はフィオルディリージがサマンサ・クラーク、

ドラベッラがリハブ・シャイエブ、

以下知らない歌手ばかり

、かと思ってよく見ると、

バルバラ・フリットリという聞き覚えのある名前があります。

あんな顔だったかと、

ネットで調べるとゴージャスな美女じゃありませんか。

狂言回し的な女中役だったのでお見それしました。

 

男性陣は

ピエトロ・アダイーニもアレッシオ・アルドゥイーニも

女性陣より背が低く、

ひげのせいもあって舞台ではどうしても貧相に見えてしまいました。

テノールはわりと小柄な人が多いですね。

ヴァイオリンがチョロより小さいのと同じ原理でしょう。

 

1番長身でめだっていたのは

ドン・アルフォンソ役ロッド・ギルフリーでした。

舞台を見るとどうしてもこういった見た目に気がついてしまいます。

しかし小澤征爾音楽塾のオペラシリーズで感心するのは

登場する歌手がだれも声量があって、

生でその声を聞くと圧倒されるということです。

 

小澤征爾亡き後このオペラ・プロジェクトはどうなるのだろう、

と心配なところですが、

入り口で配られたチラシの中に

2025年ヴェルディ「椿姫」の上演決定!

を告げるものがありました。

よかった。

でも少し心配なのは「コジ」もけっして

満席にはなっていなかったということです。

私の席の右4席は空いていて、

同じような状況が前方数列続いていました。

びわ湖ホールのワーグナーやシュトラウスのオペラ、

兵庫県立芸術文化センターの夏のロングラン公演など

もっとよく入っているんじゃないでしょうか。

内容が充実した公演だっただけに

もったいない気がしました。

ボストン交響楽団が京都コンサートホールで演奏会をしたとき、

S席がけっこうガラガラだったことを思い出します。

京都でクラッシクは無理、なんてことにならないといいのですが。

そしてできれば曲目も

「コジ」、「椿姫」のようなポピュラーな演目でだけではなくて、

冒険してもらいたいです。

「影のない女」とか。

ベルリオーズの「ベアトリクスとベネディクト」を

見ることができた(2015年)のは

同じマエストロの名にし負う

セイジ・オザワ松本フェスティバルでしたからね。