畠山さんのように

すっとディキンスンを受け入れられる人がいるとは意外だった。

英語の詩を読んだとたんに

メロディーが浮かぶなどという話は想像するしかないが、

とにかくその詩はどんなのものか調べてみた。

511

If you were coming in the Fall,
I'd brush the Summer by
With half a smile, and half a spurn,
As Housewives do, a Fly.

If I could see you in a year,
I'd wind the months in balls―
And put them each in separate Drawers,
For fear the numbers fuse―

If only Centuries, delayed,
I'd count them on my hand,
Subtracting, till my fingers dropped
Into Van Dieman's Land.

If certain, when this life was out―
That yours and mine should be
I'd toss it yonder, like a Rind,
And take Eternity―

But, now, uncertain of the length
Of this, that is between,
It goads me, like the Goblin Bee 
That will not state―its sting.
 
以下語釈と

「完訳 エミリ・ディキンスン詩集(フランクリン版)」

東雄一郎氏の訳を紹介します。
 

第1連(最初の4行)
brush:(蠅などをブラシ・手などで)

          払いのける
spurn:にべもない拒絶:けり、突き
 

あなたが秋にいらっしゃるなら
私は夏を払いのけましょう
微笑みと拒絶の両方で
主婦がハエを追い払うように

第2連
wind  :   巻く
drawer: 引き出し
fuse  :   溶ける

一年すればお会いできるなら
わたしは月々を球に巻いて
別々の抽出(ひきだし)にしまいましょう
その順番がまざらないように

第3連
delay     : 遅らせる
subtract : 引き算をする
Van Diemen's Land : 

ヴァン・ディーメン島(タスマニアの旧称)

かつてのイギリスの流刑地。
 

もしも数世紀遅れるだけなら
わたしはそれを指折り数えましょう
だんだん引いて私の指が
ヴァン・ディーマンの大地に落ちるまで

第4連
out:     終わって、尽きて
yonder:    向こうに
rind:      (果物などの)皮
eterenity: 永遠
If certain(…)That
=If it were certain (…)that ~
=もし~が確かなら
itはthat~をさすというおなじみのパターン。
 

yours and mine, should be: 
天国でyour lifeとmy life があるのなら
 

I'd toss it yonderのitはlifeをさす。

もしこの世が終わったとき
あなたとわたしの生命があることが確かなら
この世を果物の皮のように捨て去り
永遠をすすんで選びましょう

第5連
this, that is between :二人の間にあるこれ、隔たり
goad   :(突き棒で)突く。責めさいなむ
Goblin : (人に害を与える醜怪な)鬼
sting   : (ハチなどの)針
state   :  はっきり公表する。

            ここはnotがついているので

でも、それまでの
時の長さが不確かなので
わたしを絶えず責めるのです
あの針を隠し持つ「鬼蜂」のように

 鞠二月二日堂のブログに詳しい解説がついているが、

それを読んでこの詩が

岩波文庫の「対訳 ディキンソン詩集」に

収録されていることが分かった。

その本を探して130頁を開くと、

今回ひいたのと同じ単語の意味が書き込んである。

ああ、全然進歩してない。

岩波文庫の亀井俊介氏の注はとても親切なので

一部、上の語釈に取り入れさせていただきました。

亀井俊介氏は「一読して明瞭な愛の詩」と書いている。
亀井先生といい、畠山さんといい、

ピンとくる人にはピンとくるのが詩というものなのか。

 私は3行目と4行目のコンマに引っかかり、

ディーマン島に指が落ちるという奇想に引っかかり*、

「永遠」などという語が出てくるので、

冒頭の「あなた」は神か天使かと思ったりした。

まあとにかく畠山美由紀さんの歌でも聞いてみようか。

(「夜の庭」というアルバムに

If you were coming in the Fallは収録されているそうです。)

 *一説によれば、掌を下に向けて指を折り曲げながら、

「この指(人を指すどこへ行った」

「down under(オーストラリアを指す)よ」

といった問答をする子どもの遊びを踏まえているという。

(岩波文庫の注)。