一昨日(3月13日)のこと、

夕刊を広げると半ページ以上にわたる大きな記事に目がとまった。

取りあげられているのは、

シンガーソングライター 畠山美由紀さん。

「歌うことや、歌を作ることの根っこにある

「みっつ」を聞きました。」

という趣旨のインタビュー記事である。

気づかなかったが

 

 

 

 

 

「わたしのみっつ」という連載記事があったのだ。
自作アルバム「Complain too much」と

絵本「いのちをいただく 未唯ちゃんがお肉になる日」

とともにあげられているのが、

エミリ・ディキンスン詩集「自然と愛と孤独と」である。

気仙沼から上京した19歳の頃

川崎の書店で見かけて買ってみたところ

「箴言集みたいで読みやすくて。

自然の描写が美しいけれど懐かしく、

すごくわかる、と思いました。

透徹したまなざしを生涯磨き続けた人なんですね。」
とのこと。

ディキンソンの詩に曲をつけた作品

「If you were coming in the fall」については

「英語の原詩を見た瞬間、

頭の中にメロディーが流れて。

え?これ、私が作ってるのって。

不思議な体験でした。」
という感じだったそうだ。

この記事に注目したのは

私自身エミリ・ディキンソンに惹かれて

ある程度読んできたものの

けっこう難しくて苦労した覚えがあるからだ。

以下ディキンソンの英語と格闘した経歴を振り返ってみたい。

最初に読んだのは

岩波文庫の対訳版「ディキンソン詩集」(亀井俊介編集)だった。

2012年のことである。

50篇の詩が収められた170頁の薄い本だ。

対訳なので自分なりに辞書をひいて英文解釈をして

翻訳を読むという読書である。

同じ岩波の対訳詩集では

ブレイクやコールリッジを既に読んでいた。

ブレイクもコールリッジも、

とりあえす語学的な理解はそれほど困難ではなかった。

一方、ディキンソンは身近な生活を歌っているようでいながら、

独特な発想について行けず、

なかなか手強いものを感じた。
 

あるとき MARUZEN&ジュンク堂で

ハードカバーの

The Complete Poems of Emily Dickinsonを見つけた。

初行索引がついていて770頁の大冊である。

欲しくなったが、迷ってその日は買わず、

次に来た日に買った。

そう記憶していたのだが、Amazonで件の本を検索すると

「最後にこの商品を購入したのは2016/1/19です。」という表示がでてきた。

やはりamazonの方が安かったのかな。

EDITED BY Thomas H. Johnsonと書かれているのが

どういう意味かそのときは分からなかった。

ジョンスン版が出たのは1955年。

今ではフランクリン版が定本となっている。

その頃私は週五日高校で英語を教えていた。

朝5時40分に目覚まし時計をセットしても

5時には目が覚めて二度寝ができない。

そこで寝床の中で「源氏物語」のような日本の古典を

4頁読むということを続けていたのだが、

日本の古典もそこそこ読んだので、

その代わりにエミリー・ディキンソンを読むことにした。

英語の教師のくせにと言われそうだが、

自力で完全に理解するのは無理だと思った。

一度読んだ岩波文庫と

研究社小英文叢書の「ディキンソン詩選」を用意した。

訳はついていないが新倉俊一氏の詳細な注釈がついている。

古本でエミリー・ディキンソン詩集も買ってみたが、

ジョンソン版の作品番号順に詩が並んでいるわけでもないので

利用するのは諦めた。

 

ジョンソン版は詩が書かれた順に番号を付してある。

ディキンソンは詩に題名を付けなかったので、

ジョンソン版の○番といえばどの詩か指示できる。

それで1番からコツコツ読み続けたのだが、

やはりすべてスカッと分かるようにはならない。

ふと思いついて調べてみると、

フランスで

フランス語と英語の対訳版の全詩集が

出ているということが分かって購入した。

フランス語と英語は語彙の4分の3は共通しているし、

とても近しい関係にある。

仏訳が役に立つのかと思ったが、これは正解だった。

同じ横文字でもフランス語訳を読むとよく分かる。

というか分かりやすい訳にしてくれている。

ただこの本はフランクリン版なので

詩の並び方が少し違う。

やはり大冊だがハードカバーではないので少し扱いにくい。


それなりに頑張ったがとても最後まで読み通せなかった。
 

畠山さんの記事を読んで

久しぶりにジョンソン版を開いてみた。

シャープペンシルで書き込んだ単語の意味とともに

読んだ日の日付が残っている。途中からだが、

45番のところにFeb. 22thと書いてある。

生徒には22ndと書くように注意していたのに気づかなかったようだ。

50番のところにFeb.25th、

54番にはFeb.27。

364の上に横線と矢印↓で2019。

366番の終わりにle 2 janと書いてあって、

ここで力尽きたようだ。

ちなみにジョンソン版は1775番まである。

今なら

「完訳 エミリ・ディキンスン詩集(フランクリン版)」(金星堂 2019年)がある。

せっかく買ったのに読んでない。

皮肉なものだ。
 

 2019年の春から夏にかけては、

シルヴィア・プラスの詩を読んだ。

ちなみにこの二人とも、半生が映画化されている。

2017年公開の「静かなる情熱 エミリ・ディキンスン」と

2003年制作の「シルヴィア」である。
いいかげん長くなりすぎたので

畠山さんが曲をつけた詩については次回。