「エウリディケ」のチケットを買ったのは、
オルフェオとエウリディーチェの哀切極まる物語が
どのように脚色されるのか興味があったからです。
私の場合レーザーディスクで見た
モンテヴェルディのオペラ「オルフェオ」のイメージが決定的でした。
フッテンロハーなんていう長い名前の歌手がオルフェオでした。
それにしてもどうしてチケットが12000円もするのだろう、
阿部寛や宮沢りえのような人気俳優が出ているわけでもないのに、
と思いながらシアター・ドラマシティに入場しました。
ちょっと異例なことに出演者のファンクラブ受付のコーナーがあり、
グッズ売り場は長蛇の列です。
うーんそんなに人気者が出ているのか。
ちなみに主要キャストは
エウリディケ 水嶋凜
オルフェ 和田雅成
地下の国の王 崎山つばさ
エウリディケの父 栗原英雄
誰も知らん。
水嶋さんはミュージカルの主演作もあるとかで、
人気も実力もあるお方なのでしょう。
男には興味がないので省略。
人気があってもそんなにギャラが高いはずないんだから、
もっとチケットを安くできたんじゃないのと思いながら、
終演時間をチェックすると、
1時間30分休憩なし。
短い!
やたら長くてどうしようもなく暗い「眠くなっちゃった」のような作品にはうんざりでした。
それをを思えば短いのも悪くないかもしれません。
でも、1分133.3333…円かあ、ぶつぶつ。
原作のサラ・ルールは多部未華子主演の「オーランドー」を書いた人だったそうです。
あの舞台は実にみごとでした。「エウリディケ」の原作は50頁あまりの短いものです。
急死したエウリディーチェを取り戻すべくオルフェオは冥界へ行く。
妻を返してもらえたものの、
現世にもどるまでは振り返ってはいけないという条件を破ってしまい、
エウリディーチェは冥界に戻る。
この大筋は守られるものの、冥界でエウリディケは父と出会い、
「忘却の川」で消し去られた記憶を徐々に取り戻す、という点が独特です。
この父親がとても優しくて、
オルフェオとの若者らしい愛より細やかに描かれていて、
サラ・ルールが本当に書きたかったのはこちらの方ではなかったのか、と思いました。
冥界は幼児化した世界になっています。
獄卒は子どもみたいな服を着てバランスボールを抱いている三人の石で、
ちっとも怖くない。
冥界の王は何かというと禁止、禁止と叫び、
エウリディケにプロポーズしても
「まだ子どもじゃないの」と言われてしまいます。
最後の方で色とりどりのボールがたくさん舞台の奥から転がり出てくるシーンがあったりして、
ポップな感覚です。
現世に戻れなかったエウリディケが戻ってくると
お父さんは忘却の川に身を浸して、死んだようになっています。
オルフェオはエウリディケを、
エウリディケは父を
再び、決定的に失います。死者と再会するファンタジーはごまんとありますが、
まさに異次元の深い喪失感を感じました。
雨の降るエレベーターのような詩的イメージと
ポップな明るさが彩る舞台は実に簡潔にして哀切。
90分はジャストサイズでした。