年一度のお楽しみ、それは大阪交響楽団がコンサート形式で演奏してくれるオペラだ。

去年はドボルザークの「ルサルカ」だった。

チェコ語での上演は相当苦労があったのではないかと思うが、補助席がでるほどの盛況だった。

ことしはラヴェルの「子どもと呪文」(「子どもと魔法」というタイトルになることもある)。

50分ほどの短いオペラなので

前半はデュカスの「魔法使いの弟子」とラヴェルの「マ・メール・ロワ」とファンタジー満載のプログラムだった。

休憩の後、オケの後ろに合唱団が入場する。

左側が少年少女合唱団、中央は女声、右は男声でざっと70人くらいはいる。

コンサート形式のオペラの場合、合唱団やオーケストラの編成が大きいのと楽器の動きがよく分かるというメリットがある。

特に「子どもと呪文」の場合、楽器の種類が多く、

ラペ・ア・フロマージュなんていう聞いたこともない楽器が使われている。

ラペ・ア・フロマージュはチーズすり器。

台所用品じゃないか?

まあそれはともかく歌手たちが入場してくる。

オーケストラは通常より後ろに位置していてオケの前に歌手用に椅子がいくつか並んでいる。

右端の方には19世紀の舞踏会にでもお出かけかと思うような、キラキラ付きの真っ赤なドレスの女性(鈴木玲奈)。

この人は三役を務めるがまず「火」として登場するので真っ赤。

指揮者のすぐ近くにはノースリーブとパンツ両方とも黒というシンプルな出で立ちの女性。

椅子の上であぐらをかき始めてお行儀が悪い。

左に眼をやると寒色系の衣装のマダム(十合翔子)が。

この人は、母親、中国の茶碗、トンボと三役なのでトンボの色かな。

男性歌手はいつもの燕尾服なので語る意味もなく、また中央に眼を戻すと、

脚は下ろしているが譜面台に突っ伏している。

ああ、どうした?

…ようやく、「子どもと呪文」の冒頭は

いたずら盛りの腕白坊主が宿題をやらされてうんざりしている場面から始まるということを思い出した。

演劇の開演前に俳優がすでにその世界の人物として舞台に出ているというパターンがある。

あれかー。

本日のプリマドンナは既に勉強嫌いの男の子になっていたのだ。

事ほどさように、歌手の皆さんはそれぞれの登場人物になって楽しそうに演技をし歌っていた。

蛙役の荏原(えはら)孝弥は燕尾服に蛙の手袋で

みごとな蛙跳び二連発を見せてくれた。

オケの前、下手すると舞台の下に転落しそうな狭い場所で。
演奏会形式のオペラというと、第九の演奏会のように、

並んだ歌手が譜面台を前に真面目に歌う場面をつい想像してしまっていたのだが、

オペラはオペラだった。

舞台装置がなくても、衣装はきもち役柄に寄せる程度でも。

演じるにしても、オケと客席までの狭い空間しか残されていなくても。

声楽家の先生たちはみなエンターテナーだった。

ラヴェルのオペラの楽しさを伝えようという気概はよく伝わった。

今日はA席5500円で十分楽しませてもらった。

でもやっぱり、いつか本格的なオペラとして上演される「子どもと呪文」を見てみたいな。


   2024年2月17日(土曜)ザ・シンフォニーホール 大阪交響楽団第269回定期演奏会