三島有紀子監督・脚本『一月の声に歓びを刻め』を見た。

三つのエピソードからなるオムニバス映画の第三章だけがモノクロで、

前田敦子主演である。

前田敦子は六歳の時に受けた性暴力をトラウマとして抱えて生きてきた女性、

という重い役柄を演じている。

監督の期待に応える演技であったろう、と思われるできである。

前田敦子がAKB48で人気絶頂だった頃、なぜそんなに人気があるのか分からなかった。

AKBを卒業してから出演してきた映画はわりとマイナーな、

というか作家性の強い作品が多いのが意外だった。

本人はもともと女優志望だったらしい。

それほど完全にフォローしてきたわけではないが、

見た範囲で一番面白かったのは山下敦弘監督の『もらとりあむタマ子』(2013年)だ。

ストーリーは

東京の大学を卒業したものの、就職せず父のもと舞い戻ってきたタマ子。父のスポーツ用品店もろくに手伝いもせずぐうたらな生活をつづけるタマ子に明日はあるのか…

テアトル梅田へ、だらしない女子を演じる前田敦子を見に行ったら、

チケット売り場で見るからにアホな男子高校生二人組がいた。

「こういうときは学生証を持ってくるものなのよ」

と切符売り場のお姉さんに説教されながら、

照れ隠しにニヤニヤしていた少年たち。

「映画館へ来たこともない連中が前田敦子見たさにテアトル梅田へやって来たのか」

と思ったものだ。

もちろん、「女優で見る映画を決める」は、基本中の基本である。

あの二人が敦子=タマ子にどういう感想を持ったか聞いてみたかった。

ともあれ映画の面白さに少しでも目覚めてくれたなら幸いなことである。

生野慈朗監督の 群像劇『食べる女』(2018年)も推薦できる。

主演作『 旅のおわり、世界のはじまり』(2019年)は

黒沢清監督のタッチに、

爬虫類の背中を誤って触ってしまったときのような気味の悪さを感じてしまって

好きになれなかった。

ロカルノ映画祭クロージング作品、

ということで一定の評価を得ているのは確かでしょう。

主演作『葬式の名人』(2019年) は川端康成の作品をベースに、

川端の出身校茨木高校で亡くなった卒業生の通夜を行うというストーリーで、

ローカルカラーも良く出た佳作である、

三島監督は『しあわせのパン』以来、絵のようにきれいな画面を作る人だった。

三島作品でモノクロというのは初めてだろう。

監督自身の傷が作品の核にあることがモノクロになった原因なのだろうか。

 

 

 

結果、モノクロの前田敦子はこれまでで一番美しかった。