朝日新聞の朝刊23面には「語る―人生の贈りもの」と題した、

有名人の回想録が連載されている。

前田美波里さんに次いで、今は栗原小巻さんである。

その昔、サユリストかコマキストか、なんてことが問われていたりした。

吉永小百合さんのファンがサユリストで、栗原小巻さんのファンがコマキスト。

小百合さんより11歳年下だった僕は

幼いながらに可愛くて親しみやすい小百合さんが好きだった。

記憶に残る最初の小巻さんはテレビの連ドラ『三人家族』である。

男ばかりの三人家族と女ばかりの三人家族の長男と長女が恋に落ちるというストーリー。竹脇無我さんが小巻さんが乗った電車が去って行くのを、

美しい人が去って行くけれどうせ僕には関係のないことだと

切なく見送るシーンというのが印象的だった。

1968~1969年といえば僕はまだ12歳だった。

ませてたなーと言われそうだが、

テレビドラマこそ感情教育の場だったんですよ。

大学生になると

背が高く何か高貴な美しさをたたえた小巻さんを意識するようになっていた。

初めて小巻さんの舞台を見たのは『マイ・フェア・レディ』(再演)だったのだが、

1979年というと僕は23歳、大学院に落ちて浪人していた頃かな。

梅田の劇場前で、

見ず知らずのおばさんから切符買ってくれませんかと言われて買ったチケットは

結構いい席だったような気がする。

けっこう小巻さんの「マイ・フェア・レディ」は批判されていたような記憶があるのだが、

後半貴婦人姿になった小巻さんは

オードリー・ヘプバーンにひけをとらないくらい美しかった。

若者の一人として

イライザが年上のヒギンズ教授に惹かれるのが面白くなく、

納得いかないなーと思っていたのだが、

小巻さんの悲しそうな表情を見た瞬間、

ああこのひとは教授が好きなんだ、と分かった。

演劇など高校生のときに『夕鶴』くらいしか見たことがない無知な若者が、

初めて知った演技の力、演劇の力だった。

無事大学院に合格して、

クラスメートからクリスマス・パーティーに誘われるという生涯唯一の経験をしたのだが、そのクラスメートの友人の彼が『マイ・フェア・レディ』の編曲者だった。

日本ではだんだん音楽がセンチメンタルになるんですよ、

というようなことを言ってたのを覚えている。

朝日にクレオパトラの衣装をつけた小巻さんの写真が載っていたが、

1979年シェイクスピアの『アントニーとクレオパトラ』である。

行きたいなと思いながら結局行かなかった。

今のようにネットでチケットというものは存在せず、

チケットはプレイガイドで買うものだった。

今ならポチッと買っていただろう。

当時公演中クレオパトラのパン○○が見える、という噂があって、

朝日の記者がその点を質問した記事を読んだのだが、

優しく小巻さんに睨まれたとか。

新劇俳優らしい真面目なお答えだったような気がするがよく覚えていない。

あー馬鹿だ。京都会館の前をうろうろしていたら、

切符買ってくれませんかというオバさんに会えたかもしれないのに。

パン○○のためじゃありませんよ。

シェイクスピアですから。

結局『アントニーとクレオパトラ』は現在にいたるまで見たことがない。
 
東京に住むようになって、

日本橋三越にある劇場で『桜の園』(1981年)を見た。

当日券を買ったら、ちょっと端だけど最前列だった。

もうラネーフスカヤをやるのかと世間は驚いた。

小巻さんは36歳。

ラネーフスカヤはアラフィフくらいかな。

その半年後、今度は14歳のジュリエットである。

今風にいうと、振れ幅大きすぎー。

六本木の俳優座での公演に小巻さんが出ていればよく見に行った。

『メアリー・スチュアート』ではメアリー役で

心の中に脆いものを抱えている女性を演じていた。

ブレヒトも何本かあったはずだが記憶はおぼろになっている。

関西にもどって高校に勤めたのだが、

何かで割安なチケットを三枚購入できて、

同じ英語科の美女二人のお供をして今はなき近鉄劇場へ

『NINAGAWAマクベス』を見に行った。

嘘かほんとか、マクベス北大路欣也とマクベス夫人の間に恋の噂があった。

真面目なお二人にはうるさいだけだったのかな。

2月9日の朝刊を読むと、

1980年の「NINAGAWAマクベス」で演出家の蜷川幸雄と対立したことが語られていた。生の魚をくわえて登場する演技をした俳優を蜷川さんは面白がったが、

これはリアリズムではないと小巻さんは拒否したというもの。

その後海外公演の成功もあってなんとなく仲直りされたとか。

演出家と主演級俳優の対立というものがあったんですね。

その後見たのは『欲望という名の電車』(1995)だけ。

オフィシャルな感想としては、ラネーフスカヤの不幸はまだブランチの不幸ほどではなかった。

正直に語るなら、スリップ姿のブランチがどうしても脳裏に浮かんでしまう。。

朝日の記事を見ると小巻さんはその後も着実に舞台を踏まれているようだ。

ぴあとかで購入できる公演ではないようだが、チャンスがあれば見に行きたい。
映画中心の小百合さんと舞台中心小巻さん。

あななたたちがいてくれて僕たちは幸せでした。

 

 

ネットで調べると小百合さんは1945年3月13日生まれ、

小巻さんはその翌日の14日生まれだった。

なんと1日違いとは知らなかった。

ちなみに僕は1956年3月16日生まれ。

ワーイ、三人とも魚座だー。