舞台には体育館のような茫漠とした空間が広がっていた。

奥にはコンクリートの太い柱やダクトがむき出しで、天井は取り払われて照明が取り付けられている様が見える。

床は一面緑の敷物で覆われている。

カーペットというより人工芝のような感じだったが、よく分からない。

その緑色に意味があるということはそのときは知るよしもなかった。

奥に椅子が何脚も集められて制服姿の女子高生がその上に寝そべっているようだ。

やがて生徒たちが一人ずつ入場してきて、開演となる。

椅子が前面に並べられ、壁と出入り口の引き戸がある。

場面は教室。

そこにいるのは希穂(石井杏奈)と咲斗(石川雷蔵)の二人。

咲斗が告白したばかりだが、これからクラスメートが来るのにこのタイミングで告白するのはまずいじゃないのと、希穂がなじっている。

いかにも青春ドラマらしい幕開けである。

返事はお預けとなり数名のクラスメートが教室に入ってくる。

希穂と仲がいいのは未羽(秋田汐梨)だ。

失踪した松田先生についての話し合いが始まる。

最後に面談で先生と会った咲斗が追及され言い合いになる。
 

次の場面は夜の街で、中年の男性高木(岡田義徳)が娘を家に連れ帰ろうとするが説得に失敗する。

このとき未羽が中年の男性を見て希穂だと思う。

このあたりから独特の謎めいた世界に入って行くことになる。

一人の人間が別人でもあり得る。

あるいは変身できる人間がいる。

それはごく一部の人間にしか知られていなかった秘密であり、未羽はそれが見える特殊な能力を持っていたのだった。

後半、希穂が突然消滅するという事件が起こるが、松田先生の失踪とこのあたりでつながるのかと思った。

最後は卒業式直後のシーンで全身緑色の衣装の希穂に、未羽が代役を務めてくれたお礼を言う。このあたり誰がなりかわっていたのか、どこかで聞き落とした台詞があったようだ。

タイトルのSHELLは「動植物の堅い外皮、殻、殻のような入れ物、覆い、外見、見せかけ」などの意味がある。

殻の中に何人もの人間が入っているイメージだと思った。

『ねじまき鳥は歌い、踊る』の中でハロルド・ピンターの『昔の日々』で二人一役が納得

 

 

 

 

ヤングマガジン 上西怜 NMB48 秋田汐梨 2020.02.10 no.9 未読品

 

 

 

 

いかなかった、と書いたのだが、SHELLはあまりにも奇想天外な世界なので、納得いくもいかないもなく、なかなか消化できなかった、というのが実感だ。

映像のマジックで簡単に説明できない演劇の難しさというか、面白さというか。

「絶対他者」という概念が理解できなかった。

絶対他者は殻の中に入っているのかいないのか。

アイデンティティの揺らぎというテーマからは高校生たち中心のドラマになったのは納得できる。
作者の倉持裕によると、稽古初日キャストやスタッフから質問攻めにあうのではないかと身構えていたところ、謎を自由に想像して楽しんでいる様子で、安堵と供に頼もしさを覚えたそうだ(パンフレットより)。

スタッフ、俳優の皆さんは頭が柔らかい人が多いようだ。
 

倉持の作品で題名に覚えがあるのは『開放弦』、『お㔟、断行』、『鎌塚氏、羽を伸ばす』だが、特に最後の作品など、分かりやすいエンターテイメントに徹していた。

『開放弦』はまだ清純派美人女優だった水野美紀が出ていた。

叙情的な作品だったと記憶する。

なかなか振り幅の広い作家である。

倉持作品のごく一部しか見ていないが、おそらくSHELLは最難解作品であろう。

 

秋田汐梨はパンフレットに「自分の気持ちに素直な未羽を演じていると、毎回新しい感情が生まれてきてとても楽しい!」と書いている。

之を楽しむ者にしかず。

何回も見たら楽しくなる? 
                                          
春秋座からの帰り、叡電の茶山

 

 

 

駅まで一本道のはずなのに、なぜか迷ってしまった。

Shellの謎に導かれるかのように、闇の中をしばし彷徨っていたのだった。