コンビニで働いている気になる女の子、園子(芋生 悠)を誘い出すため、
植木屋で働くトワは自分のいるところまで木の葉を並べていく、
というストーリーをチラシで知ってから、
『こいびとのみつけかた』は是非見ておきたい映画となった。
uplinkやシネリーブルでの上映を見逃して、やっと出町座で昨日見ることができたのだが、
今頭の中には大きな?が浮かんでいる。
だからブログを書いて整理することにした。
すでに記憶があやふやな部分があって、
一部映画とずれた内容になっているかもしれない、ということを先にお断りしておきます。
木の葉を並べるという、今どき子供でもやりそうにない、
あまりにもナイーブな策略はあまりにも簡単に成功してしまう。
園子の方でもトワが気になっていて、木の葉を並べるところも見ていた。
すぐ仲良くなる二人。
トワはポケットに雑誌から破りとった記事をつっこんでいる。
イギリスのEU離脱とか、蜜蜂が全滅したら人類も滅亡するとか、
けっこう堅い話題に興味があるようだ。
園子の方もけっこうかわったところがある。
トワのためにお弁当を作ってくるのだが、白ご飯だけが入ったタッパーを渡す。
おいしそうと喜ぶトワ。
どうなるのかと思って見ていると、園子は温めたレトルトのカレーをご飯にかけてやる。
園子は倉庫をアトリエにして、空想の動物を新聞紙などを使って作っている。
彫刻家なのかというトワの問には、歌手だと答える。まだ歌はできてないけど。
トワの実家はゴミ屋敷で、不仲な両親が喧嘩すると積んでおいた雑誌が崩れた。
雑誌の記事に没頭しようとするのは過酷な現実から精神を守るためだった。
ほとんど宿無し状態だったのが、嵐の夜、トワの小屋が吹き飛ばされてしまい、園子のところに転がり込む。
このあたりから物語はダークサイドに沈んでゆく。
ゆくりなくも瀬田なつき監督の『PARKS』をちょっと思い出したが、
結局『PARKS』のようには、本作に圧倒されることはなかったわけだ。
家についていうと、トワが先輩脇坂とともに一軒家の植木の剪定をしているシーンがある。
「こんな家に住みたい」というトワにいらついた脇坂は「そんなことができるわけはない。もうなにもしゃべるな。」と言う。
幼い頃からトワを七知っている床屋に集うオジさんたちはトワを愛し受け入れている。優しい人たちがトワの誕生日を祝う場面で園子が自作の歌をキーボードを弾きながら歌うシーンがある。
曲が完成したのだ。
脇坂の世間並みの考え方をしない人間への典型的抑圧行動は本作では例外的だ。
園子の姿が見えないのでトワが探しに行くと、園子は見知らぬ男の車に乗ろうとするところだった。その男は園子の夫だという。
信じられないトワは無理矢理ついて行く。
壁はオレンジかピンクが忘れたけれど、とても瀟洒な戸建て住宅である。
まさにこんな家に住みたい、と思うようなドリ-ム・ハウス。
結婚式の写真を見せられてすごすご帰るしかないトワ。
夫役の成田凌がとてもよかった。
ある程度妻の自由を認め、トワと妻の関係の程度を見極め、むやみに嫉妬することもない。
大人の対応といったところだが、この裕福そうな人物はあまり幸せそうにも見えない。
抑えた演技ゆえ余白で感じさせるところがあった。
結局一番人間像として、ぼくに興味がもてるのはこの男だ。
『窓辺にて』を撮った今泉力哉監督なら、本作の設定を発展させて、成田凌主演で面白い映画がとれたかもしれない。
人妻との恋というと、諦めないのなら、不倫とか、駆け落ち、離婚とか、まあそんな単語しか浮かばないところだが、夫も一緒でいいから、会って話をするだけ、という妥協点が提案される。
ラストシーンで園子の誕生日に今度はトワが弾き語りを披露する。
見守る人たちの笑顔。
ある種ハッピーエンド。
でもこの歌を聞いて微笑むことができるのはトワを愛している人だけだろう。
ぼくにはそれはできなかった。
曲にも歌唱にもまるで説得力がなかった。
トワの関心事を無理矢理詰め込んだ歌詞をわりと単調なメロディーが運んでゆくだけなうえに、トワ役倉悠貴の歌唱力が、園子役芋生悠と比べてもあまりに貧弱だった。
倉悠貴は浮世離れした純粋すぎるキャラクターをよく体現していたとは思う。
が、最後にこの歌を持ってきたのは失敗だったと思う。
前田弘二監督の前作『まともじゃないのは君も一緒』は傑作だった。
成田凌と清原果耶が共同主演のラブストーリー。
二人はコミュニケーション能力ゼロの予備校講師と、
知識ばかりで恋愛経験ゼロの女子高生という役どころである。
コメディーとしてとても面白かったのだが、
『こいびとのみつけかた』はコメディーでもなく、めちゃくちゃ暗いわけでもなく、
着地点も微妙。
トワを全面的に肯定できる人以外には、やっぱり微妙というしかない。
オフィシャル・ホームページの監督コメントを読むと、
『まともじゃないのは君も一緒』の完成後、
「次はメロドラマに挑戦したい」と脚本の高田亮さんと話したことが、
この映画の始まりです、とある。
これはメロドラマだったのか。
前田監督のコメディー『婚前特急』(吉高由里子主演)も傑作だった。
前田監督にはコメディーの方が向いているのだろう。
映画やドラマがつまらなかったとき、
清原果耶が代わりに出ていればよかったのにと思うことがよくある。
しかし本作は清原果耶にも救えなかったろう。
問題はあまりにも深い。