昨日、兵庫県立芸術文化センターでイプセンの『ロスメルスホルム』を見た。

静謐さの中からときに激しい情念が燃え上がる、実に美しい舞台だった。

その美しさの基調をなしていたのはレベッカ役の三浦透子の声だった。

これほど女優の声に打たれたことはない。

それは今なお響き頭の中で響きやまない。
 

演出は栗山民也、主演ロスメル役は森田剛。

オフィシャルサイトを見ると三浦はヒロインという扱いだが、

作品の主役はどう考えてもレベッカである。
森田の人気のせいだろう、女性客が圧倒的に多かった。

森田はアーサー・ミラーの『みんな我が子』ではすっかり声を潰していて(森ノ宮ピロティホール)、

むしろ相手役の西野七瀬の好演に瞠目した覚えがある。

今回は声も不調ではなく、その演技はベテランらしさを感じさせた。

名家の当主であるロスメルにはベアーテという妻がいた。

ベアーテの兄クロル教授の紹介でレベッカは

ロスメルの館、ロスメルスホルムに住むようになる。

物語はベアーテが自殺した一年後のことである。

レベッカ-ロスメル-ベアーテ三者の関係だけなら、ラブロマンスとして理解できるのだが、

見ていてよく分からなかったのは、

保守派のクロル教授に対し、進歩主義のモルテンスゴールという人物が出てきたりして、

政治・道徳・信仰といった、

思想や生き方を問われる問題が絡んでくるところだった。


イプセンはこれまでだいたい毎年一本公演を見てきて数本は見てきた。

十分理解できなかったにもかかわらず、

本作は本作はこれまでに見たイプセンの作品の中でも、

また今年見た演劇作品の中でも最高の作品だったと思う。

イプセンに『ロスメルホルム』という戯曲があるということも知らなかったが、

そもそもイプセンの最高傑作だとして推す声もある、というのには納得だ。

amazon で『ロスメルスホルム』の一番手頃な星雲社版の本を注文して読んでみた。

梅沢昌代が演じていた家政婦の役がない。

「笹部博の演劇コレクション」というのはどういう意味かよく分からなかったが、

笹部氏というのは演劇は関係の脚本・演出・プロデューサーだそうだ。

 

氏の作品一覧の中では、北乃きいが主演した『人形の家』などは見たことがある。

上演台本なのか。

昨日の公演はダンカン・マクミランという人の脚色だそうだ。

やはり『イプセン戯曲全集』で読むべきだったかな。
それでも524円の安い文庫本を読んでやっと分かったところもいくつかある。

レベッカがクロルに或る過去を指摘されて非常に苦しむのはなぜか、という謎など。

解説に、西洋のイプセン研究家は

よく分からない作品だが傑作ということにしておこうというのが一般的な評だが、

よくわからないものを傑作だと評するのは矛盾している、と笹部氏は批判している。

批評家の態度としては中途半端かもしれないが、

やはり何か感じるものがあって傑作だと思ったのだろう。

専門家にもわかりにくい作品のようだ。

「人間の運命をめぐるファンタジー」と題された解説は面白かった。

東京公演は11月15日から。

追加公演もあるそうだが、

もしチケットがとれるようなうなら、是非ご覧になることをお薦めする。

<おまけ>
三浦透子への私的評価V字回復

『ドライブ・マイカー』:ドライバー役がしびれるほどカッコよかった。
        ↓
 主演映画『そばかす』:ストーリー自体面白いし、演技に文句はないが

           ヴィジュアル的に主演はきびしいと思った。
           顔の面積が1.5倍になったかのような印象。
           ヘア、メイク、撮影監督、水分のとりすぎ、原因は何だ?
               

 

 

 

 

 

 

もっときれいに撮ってあげて。
        ↓  
『ロスメルスホルム』:最高の舞台女優だ。