少し前、ある日の夕刊に宝塚の演出家生田大和氏が元宝塚トップ娘役、真彩希帆さんと結婚という記事を見つけました。生田氏の名前を覚えたのは、昨年夏の花組公演『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』の作・演出家としてでした。宝塚の演出家といえば、きっと年配の紳士に違いないと思いこんでいたので、意外と若かったんだというのが正直な感想、いや失礼しました。おめでとうございます。真彩希帆さん、今さらながらお美しい。あまりにも華やかな職場結婚。宝塚大劇場には三回しか行ったことがないくらいなのでよく知らなかったんですが、演出家とスターの結婚というのはわりと珍しいらしいですね。
 『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』はマリー・ダグーとの恋愛を中心にリストの青春時代を描いた興味深い作品でしたが、なにより、よく知られている、ショパンとジョルジュ・サンドの恋愛ではなく、リストとマリー・ダグーのカップルを取りあげてもらえたのが大変うれしかったのでした。私はリストと旅していたころのマリーの日記を翻訳して、『巡礼の年』と題して2018年に自費出版したので、マリーとリストには相当思い入れがあります。『巡礼の年』はおそらく宝塚のおかげで残部を完売し、今ではamazonのkindle で読むことができます。
 宝塚のミュージカルはあくまでも華やかなファンタジーの世界なので、シーンごとに史実はどうだったのかということを、ちょうど一年くらい前、ブログに連載しました。「宝塚『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』宝塚の舞台と真実の間」というタイトルです。ちょっとのぞいてみて下さい。
 その後私はマリー・ダグーの自伝を翻訳・自費出版しました。『雪下のマグマ』(青山ライフ出版)というタイトルです。マリー・ダグーという人は夫のダグー伯爵と娘を振り捨ててリストと愛の逃避行をやらかした人なので、当時から「情熱的」という強烈なイメージがありました。それで、ある人がマリーは分厚い雪の下の溶岩のようだ、と言ったそうです。ただ雪の下に横たわっている溶岩は冷え切っているはずだと考えて、『雪下のマグマ』というタイトルにしました。『雪下のマグマ』は生田氏と、とても愛らしくマリーを演じて下さった星風まどかさんに送らせていただきました。星風さんからはお礼状をいただきました。はがきの裏がサインつきの美しい写真になっています。ありがとうございました。今は『鴛鴦歌合戦(おしどりうたがっせん)』に出演されているとか。着物姿も粋で華やかで素敵です。
 『雪下のマグマ』第3部にはマリーとリストとの恋愛が、なれ初めからちょっと小説風に描かれています。少し値段が高いのですが、興味のある方は是非お買い求め下さい。京都丸善などでは世界史のフランス史のあたりにまだおいてあると思います。丸善の『雪下のマグマ』の近くには、ダニエル・ステルン著『女がみた一八四八年革命』 上下2巻(藤原書店)が置かれていました。このダニエル・ステルンというのはマリー・ダグーのペンネームなんですね。マリー・ダグーの著作として日本語で読めるものが、『巡礼の年』だけだったのがこのところ充実してきました。
 今私は『音楽バシュリエの書簡集』の翻訳にとりかかっています。リストの著作集に入っているエッセイ集なんですが、かなりの部分リストから頼まれてマリー・ダグーが書いていたらしいので、マリーとリストの共著として翻訳を出版するのが私の夢です。自費出版にはこりたので、出版関係で興味のある方はご連絡ください。とても面白い本です。