岩波少年文庫に「バラの構図」という作品が入っています。カバーの折り返しの文章を借用しつつ内容を紹介すると……

バラの花模様の古いビスケット缶におさめられていた少女の肖像画にはT.R.I.のサインがあった。そして墓地で偶然に見つけた墓石にもT.R.I.と記してあった。T.R.I.は自分自身のイニシャルでもあったので、ティムはショックを受ける。15歳で亡くなったT.R.I.ことトムと肖像画の少女になにがあったのか、60年前の事件を探るミステリータッチの青春小説。
 
 岩波少年文庫だし、タイトルが「バラの構図」なので、何となく「トムは真夜中の庭で」や「想い出のマーニー」のようなタイムトラベル・ロマンスを想像してしまいましたが、トムの幽霊が現れはするものの、ファンタジー要素は抑え気味で、わりと辛口な現実を描いています。
 主人公は日本の高校1,2年生くらいなので、児童文学というよりヤング・アダルト向けの小説ですね。イギリスの大学入試制度(Oレベルとより高度なAレベルの一般教育履修試験があり、大学へ入学するには少なくとも2科目以上のAレベル合格が必要。「バラの構図」の42~43ページ参照)とか、高校生でも車の運転ができるのか、といった発見に興味を感じる人もいるでしょう。
 私はタイトルが「バラの構図」というわりにあまりバラに神秘的な秘密はなく、ちょっとあてがはずれてしまいました。ただ、作品としては60年前と現在を往還する構造をベースに、たしかによく書けているとは思います。
 英語やフランス語の文学作品は極力原書で読むことにしているのでOxford University Press 版のA Pattern of Rosesを購入して読んでみました。135ページとコンパクトですが、珍しいことにハードカバーで、その表紙のカラーイラストは著者が描いたとのこと。なかなか瀟洒な一冊です。1972年初版ですが、私が購入したのは1984年版。(amazonで古本を購入しましたが、現在同じ版は見つかりませんでした。)改版に際して著者のAfterword(あとがき)が加えられています。たった3ページのあとがきですが、そこには本書の中心的なテーマはthe conflict of youth breaking away from the domination of parents(親の支配から脱却しようとする若者の葛藤)であると端的に書かれています。岩波少年文庫には著者のあとがきは収められていません。なかなか興味深い文章なので原書を購入される際にはAfterword つきか、注意されるといいと思います。