『巡礼の年』は宝塚大劇場での公演が終わり、9月4日まで東京宝塚劇場での公演が残っています。私は宝塚大劇場で、ここは違う、そこも違う、と言いたい気持ちを我慢して 見ていました。私はマリー・ダグーがリストとともに旅をしていた頃の日記を訳して『巡礼の年 リストと旅した伯爵夫人の日記』というタイトルで自費出版し、さらにマリー・ダグーの自伝を翻訳したので、少々マリー・ダグーについては詳しいのです。
事実と違うといってもそこは、フィクションですから、違ってもいいし、あえて事実を離れることで、見えてくる真実があるかもしれないので、決して批判したいわけではないのですが、つい舞台で起こったことをそのまま事実と考えると、誤解のもとになりますから・・・
パンフレットの内容紹介に沿って振り返ってみましょう。
S1 ジョルジュ・サンドの屋根裏部屋でまどろんでいたリストが目を覚ます、といったシーンですが、二人は恋人同士ということになっていますね。絶対にそんなことはない、とはいえないものの、恋人同士だったという証拠もないのですが、リストはマリー・ダグーより先にサンドと知りあっていた、のは事実です。そしてマリー・ダグーはひそかに小説家として才能溢れるサンドの方が、同様に才能溢れるリストにふさわしいのではないか、と思い悩んだこともあったので、事実ではないにしてもこのシーンが示唆するものは無意味ではありません。
S2 1832年12月ル・ヴェイエ(またはヴァイエ)侯爵夫人のサロン。ここでマリー・ダグーとリストは始めて出会います。マリーは自伝『雪下のマグマ』(今年中には刊行予定)の第三部「情熱」でリストとの恋を語っています。リストは紹介されるとすぐマリーの側に腰を下ろして親しげに語り始めました。翌日ラ・ヴェイエ夫人はマリーの家に来て、リストを自宅に招待するよう勧めます。リストは返事も出さずにマリー宅を訪れ、やがて入り浸るようになります。マリーの方が6歳年上なんですが、とても気があったようです。
以下に続く。