きっかけはこの1枚のポスターとの出会いであった。
2014年8月に訪れたパリ4区の、とある場所で。
そこはマレ地区と呼ばれ、16~18世紀の貴族の館が今でも数多く残る歴史的な趣のある街だった。
このお城のような外観にピンとくる方もいることだろう。
こちらは現存する最も古い貴族の館でサンス館という。
鉄格子の扉横の出入り口から中へ。意外と狭い中庭の空間がお出迎え。
(居合わせた観光客らしき金髪2人連れの御婦人に撮ってもらった)
ところで私がここを訪れたのにはちょっとした理由があった。 このサンス館、現在では芸術と産業技術を専門にしたフォルネイ図書館となっている。(20世紀に改修 がなされた) その蔵書の豊かさには定評があり装飾関連の著作や図録なども充実しているというので、機会があれ ば一度訪れてみたいと思っていたのである。 それで最初のきっかけのポスターの話に戻るが、図書館の建物の入口を入ってすぐの壁の掲示板に 貼ってあり、パッと見た瞬間になぜか目が釘付けになった。 まるで頭に鶏冠(とさか)が生えたような人物。鶏人間なのか? よく観察すると鶏冠のような奇妙な帽子 を被っているらしいと判明したが…全体の淡い色調も美しく、何ていうか妙に心魅かれた。 masques masquerades mascaronsっていったいどんな展覧会なのだろう 見ればすぐ下にLouvreの文字が!! いちばん上には小さく開催日程が記されていた。ええと6/19~9/22ということか。それなら ということで私はルーヴル美術館へ行くことにした。
さてフォルネイ図書館を紹介するのは今回の目的ではないので、興味のある方はコチラのサイトをご覧 下さい。 http://www.mmm-ginza.org/museum/serialize/mont-back/0610/montalembert.html <フォルネイ図書館アドレス> 1 Rue du Figuier 75004 Paris
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ルーヴル美術館展覧会場の入口。他にルイ14~16世関連の調度品?の展覧会もやっていた
展示作品を紹介する前にどんな内容なのかを確認しておこう
まず展覧会タイトルのmasques masquerades mascaronsの意味について、グーグル検索で調べてみると…すぐにルーブル美術館の過去の展覧会ページに跳ぶことが出来た。日本語翻訳機能により示されたものは、<展示用マスク、仮面舞踏会、マスカロン>であった。
展示用マスクはあのヴェネツィアのカーニバルで顔に被るようないわゆる仮面のことだと想像がつく。マスカレードが仮面舞踏会、さて問題なのはマスカロンである。
しかたがないのでmascaronsのみでもう一度検索。゜すぐに出てきたのは<建築彫刻とか装飾>という意味で、載っている写真はよくヨーロッパの建物の入口などに悪霊が中へ入らぬよう恐ろしい顔の人間の彫刻が施してあるやつで…。
その他にもいろいろと調べていくうちに他の意味もあることがわかってきた。どうやら今回の展示内容からするとこちらのほうが近いのではないかと思える文章を見つけた。
<イタリアとフランスの16世紀と17世紀のマスカロン>というソルボンヌ大学在籍者の研究論文によれば、マスカロンという言葉は、アラビア語のマスカロから翻訳されたもので、マスコラの派生品、大きなマスク(grossa maschera)、大きなグロテスクなマスク(1378-1395)、装飾モチーフグロテスクなフィギュア(1550、バサリ)または幻想的な人間や動物で構成されている…なにぶん翻訳のため意味がわかりにくくて悪しからず。(※補足として、ここでいう装飾モチーフグロテスクとは、古代ローマを起源とする異様な人物。動植物などに曲線模様をあしらった美術様式の一つをいう)
もともとはその起源以来、マスカロンは、多くの喜び、怒り、悲しみまたは恐怖としての幸福を表現するためのものとして存在してきた。
最初に登場したのは14世紀のイタリアであり、フランスにおいては中世の仮面を「マスカロン」と呼んだということのようである。そして14世紀以降、人間、動物、怪物、または幻想的な頭のすべての顔、マスクに「マスカロン」という名前がつけられていく。装飾的なモチーフとしてよく使われたたとえば葉の頭部は、ゴシック様式の芸術に非常に一般的なモチーフとして使われた。この展覧会におけるマスカロンは装飾マスク=仮面飾り的要素が大きいもののように私には感じられた。
まあ、こんなところだろうか。
それではご覧下さい(ガラスが反射してよく撮れているとは言い難いが、常設展の作品と違いこういう企画展でしか観れない貴重な作品なのでお目にかけたいと思う)
この絵は他のサイトで同じものを見つけられた
いかがでしたか?
どういう内容の展覧会であったかという雰囲気だけでも伝われば…。
それでは次へ。
<四 季>
アルチンボルド作 (1573年)
※アルチンボルド展は現在まだ国立西洋美術館にて開催中。(9/24迄)
ここでこの記事のタイトルを今一度
「ルーブルの企画展とアルチンボルド」です。
アルチンボルドの絵を始めて目にしたのはいつだったろうか。
なんだ…これは?!という衝撃。グロテスクだけど、でも美しい。
それで充分だった。絵画とは感じるものだという思いが強かったから。
さて、アルチンボルドというと上の写真に代表されるような奇想な絵を描く16世紀の宮廷画家として知られているtが、今回はタイトルの内容に関連した作品のみを取り上げたい。
アルチンボルドの活躍は宮廷画家の分野だけに止まらず、現代でいえばアート・ディレクターといえる分野にも才能を発揮した。ハプスブルグ家の皇帝ゆかりの王侯貴族の結婚式や戴冠式などの祝祭行事の企画演出を担当したり、また貴族が仮装するための衣装や小道具などのデザインも手掛けた。
それがこの<ハプスブルグ家の祝祭のための衣装デザイン集>である。
※1585年
馬にまたがる騎士の衣装デザイン
槍を持つ貴婦人の衣装デザイン
料理人の衣装デザイン
海獣の衣装デザイン
そして…
これは衣装デザイン集には載っていないだろうが、アルチンボルドの素描である
何故私がこのアルチンボルドの衣装デザイン集の作品を取り上げたのか?
もうお解かりだと思うが、先に挙げたルーブルの企画展を連想させられたからである。
こんな小道具としてのそりの素描にも…
このデザイン画にも、ルーブル展示に見られる頭部のマスカロン的要素がみられないだろうか。
先ほどの繰り返しになるが、人間、動物、怪物、または幻想的な頭のすべての顔、マスクに「マスカロン」という名前が付けられていったのだ。
しかし何故王侯貴族たちは変身願望を満たすための仮装に明け暮れたのだろうか?
仮装の意味するものとは?
それは王侯貴族の結婚式や戴冠式などの祝祭行事において重要な意味を持っていた。
祝祭とは宴会などの遊びの面も見せつつ支配者の権力や富の豊かさを他国へとアピールする場でもあった。それは結果として他国に戦意を喪失させるための国防の意味も含んでいたのである。
王侯貴族たちは、こうした祝祭行事において、世界をつくる四つの元素である水・火・空気・土や四季を擬人化した姿になったり、テーマに合わせた凝った仮装をして豪華さを示し、国防への頼もしい協力者となった
さて、その祝祭行事を生み出したのはルネッサンスの発祥地イタリアであり、そこで育ったアルチンボルドも少なからずやその影響を受けていたと思われる。これらの衣装デザイン画を見るにつけ…。
下に紹介するのはアルチンボルドのデザインではないが、
おそらく少し前か同時代と思われる他の画家によるマスカロンである。
もしかしたらルーブルの企画展でも展示されていたかもしれないが、
手元に資料なるものが最初に挙げた例の写真しかないので。
これなど典型的ともいえそうなものではないだろうか
こちらが先なのかアルチンボルドがヒントにしたのか?
こんな彩色画は珍しいほうかも
頭の赤い部分はお解かりだとは思うが炎だ
そして…
こうした仮装衣装や小道具といったデザインの世界でも腕を奮いながら、25年の歳月を宮廷画家として皇帝.(ルドルフ2世)に仕えてきたアルチンボルドが最晩年に描いたのがこちらである。
ウェルトゥムヌスとしてのルドルフ2世
(1590年頃)
※ウェルトゥムヌスとはローマ神話に登場する果樹と果物の神
これはもう立派なマスカロンといってもいいのではないか
してみると私がフォルネィ図書館で導かれるようにしてルーブルで観た企画展、
masques masquerades mascaronsは
アルチンボルドの集大成<四季>の最高の状態を皇帝の顔に見立てた
装飾マスク(マスカロン)へと繋がっていたのかもしれない…。
私の誇大妄想的解釈に最後までお付き合い頂きありがとうございました。
よろしくお願いします