この作品は、小池修一郎さんにとっての、宝塚を含めてのエンターテインメントに対する心構えというか、ポリシーの表明ではないかと感じました。

 

 世界はコロナの蔓延によって、社会は翻弄され、ウクライナでも、ガザでも、アフリカアジアで、戦争がやみません。人々はいつも、悲しい試練に立たされます。

 そんな逆境に立ち向かうための心、あるいは、悲しみのさなか耐え忍び、立ち上がる心を与えてくれるのが、芸術とまで言わないまでも、歌や踊りがある。宝塚もまたしかり。

彼の、そんな思いがこの作品の中に込められている。その思いが見る側にも、役者にも伝わって、素敵な時間を共有できたなあと、劇場で思いました。

 物語としては、いわゆるナチスドイツとレジスタンスと劇場というオーソドックス構造だし、突っ込みどころはいくつもあるけれど、キラキラしたショーの場面がいくつもあって、宝塚を見ているんだという幸せな体験を享受できました。

 

 突っ込みどころ?ーーなんで、見知らぬドイツ人にアネットはついていくのよとか、ペペさんの奪還のためにいとも簡単にドイツに入れたねとか、なんで、ドイツ軍の慰問で、シャンソンの、「Frou frou」とか、「J`attendrai」歌うんかい!有り得んでしょうとかあっても、テンポある展開、たくさんの共感的なエピソードで、そして、生徒さんの熱量ある芝居の数々で、楽しめるんですね。

 

 そして、柚香さんの最高のダンス。星風さんのヒロインの最高のたたずまい。退団に胸が痛いです。お二人についてはラスト時のLV見てから思い出を語りたいですね。今回のピエロのダンスすごい!

 

今回のお役で目立った方。

 綺城ひか理さん、存在感限りなし、歌も芝居も彼女が出てくると,締まります。美しいし。

 永久輝さんのフリッツは、キャラクターの作り方が良いですね。夢見がちな青年将校で明るいんですね。このフリッツのキャラがドイツ人とフランス人という国籍を乗り越えて、芸術を愛する同志の心の連帯感をきっちりと表しています。

 輝月さんは、もう、宝塚にはなくてはならない方。存在感限りなしですが、彼女の場合、悪の権化にならないので、出てきても後味が悪くない、演劇的にはどうかですが、宝塚はリアルな世界ではないので、ぴったりの悪役であります。

 聖乃さんのお役はもう少し、途中で物語に絡ませてあげたいですが、難しい語り部をきっちり演じて頼もしいです。

一樹さんも、いつまでもいてほしいお方です。

 

 パレードで、美しい大羽を背負った柚香さんを見たら、涙が流れて困りました。長い間ありがとうでした。