焼夷弾攻撃の中、炎の中から母親を助け出せなかったトラウマを抱えた少年、眞人。彼のトラウマから脱却するまでの心の葛藤を神話的イメージを借りて、大きなスケールで描き出す。アニメという形式を使っての「死と再生」の物語、宮崎駿さんの傑作だと思います。

 

  疎開先に行って、彼は何もかも受け入れられない。父の後妻の夏子は亡くなった母の妹だし、しかも、妊娠している。面差しの似ている彼女に心は混乱する。

 疎開先の学校では虐められ、眞人は、石ころで自分を傷つける。これは手首カットと同じで、ふがいない自分を痛めつけたい自傷行為であり、母親を助けられなかった自分への罰です。

 

 そんな苦しみの中、不思議な塔に入り込み、眞人は様々な試練に会います。地下の霊界に沈み、義理の母の夏子を助けるために幣帛に襲われたり、漁師のキリコさんの仕事を手伝ったり、大変な目にあいます。これらは、冒険をすることで、考えを変えていく試練、或いは、大人になってい行く通過儀礼的なイニシエーションと見えます。

 霊界で出会ったヒミは自分の母親であった。一緒に行動しながら、彼は母親の死を受け入れ、新たな戦後の人生を歩みだす。

 

 次から次へと繰り出される華麗なイメージの奔流に惑わされながら、観客も眞人と一緒に流されて、彼と一体化して、彼の再生に立ち会うという。素敵なたくらみの作品でした。

 

アオサギを中心とした鳥たちが出てきますが、鳥は天界と地上、人間とをつなぐ使者、橋渡しをする役目を持ちます。

 それに宮崎駿さんは空を飛ぶことに執着するのでいろんなトリが出てきます。アオサギは最初眞人に敵対的ですが彼が変わっていくに従って、友人になっていく。顔が怖いので中途で劇場を出ていく子供さんがいましたが、日本の子どもではグロテスクな描画に耐えられないかも。可愛いのも出てくるのですけどね。