今現在の世界には、武力を行使して、他国に攻め入ったり、同じ民族間で血を流しあっている現実があります。ウクライナでの戦争や、スーダンでの民族間紛争が、連日テレビに流れ、戦車や大砲で、覇権を取り合っています。

 

 そんな中、戦わずして、平和裏に多民族が共存しあう世界を目指すという、この作品の主張に深く共感しました。

 

 連邦政府の大佐とルコスタ州の民族派の首長は、どうにかして、血を流さずに紛争をまとめようと画策している。

 大佐は、軍隊を動かして民族派を黙らせようとする少佐に手を焼き、民族派の首長は、武力蜂起しようとする過激派をなだめるべく汗を流している。

 それが功を奏して、ルコスタは、国際社会を後ろ盾にして、うまく独立を果たす。現実はこんなに旨くいくはずはないのだが、作者、正塚さんの思いが伝わってくる。

 この話し合いは「江戸城無血開城」の勝海舟と、西郷隆盛に範をとっているのではないかと、想像された。両者の話し合いで、江戸は火の海にならずに権力が移譲されたのだから。

 

 物語の進展には多少の無理があるけれど、平和的解決という主張で、ストーリーを作っていく。

 宝塚にも言えるけどエンターメント世界では戦争は題材に取り上げやすい。愛する人のためにといって、祖国のために立ち上がるシーンは格好良いし、涙も誘う。

 つい最近では「NEVERsaygoodbye」はウクライナ戦争が始まったばかりの時で、故国のためにと銃を持って戦う高揚するダンスや芝居は見ていて辛かっかったし、良い気持ちがしなかった。

 

 本作品では、結局、大佐たちの願いも空しく、連邦のなかで次々に独立戦争は起きていく。それが世界の現実なのかもしれない。それでも正塚さんは、この作品を作りたかったのでしょう。30年も前の作品だけれど、今現在の世界や日本を見透かすような物語になっている。

特に、先制攻撃をさせて、そこに報復として攻撃を開始するという、連邦政府の作戦は今の日本に重なる。専守防衛という国是をあいまいにし、敵基地攻撃能力を可能にしようとする日本政府の姿勢に連想が行った。

 

 細かいところはいろいろ突っ込みがあるけれど、ライラをロマにしたのは違うだろう。いわゆるジプシーといわれるロマは国土を持たないし、ヨーロッパ社会からは差別されているのだから、独立運動の戦士にはなりえないし、シンクレアも、ロマには恋しないと思うのだが。

 でも、作品は演者の力のこもった演技で、見ごたえあったし、テーマも共感したし。それと、正塚的コミカルな演出が今回は滑らずに深刻な芝居の中で、息を付けるシーンになっていた。

 

 今回、皆さん素晴らしい渾身の芝居を見せてくれたが、特に大佐の、凛城きらさん、硬軟取り混ぜた演技、お歌もすばらしかった。高翔さんも、貫禄あって芝居を締めていました。

 希波らいとさんがぴったりの役で歌もおじょうずダンスもお上手。ファンが増えるわ。

今回歌がものすごく難しいでしたが、花組の皆さん上級生、中堅、下級生、見事に歌い切ってました。最近の宝塚のレヴェル高いと、またしても、実感。

いつも悩める主人公のれいちゃんも今回もまた悩んでいて、可哀そうでしたが、ラストに涙涙で、幸せそうで良かった。フィナーレのダンスは相変わらず神でした。