人生について多様な問題を投げかけながら、生きることへ正面からの問いかけをする、同時に、人間の心の奥底を照らし出す。映像は美しいが、厳しい物語だ。

 

 

 アイルランドの荒涼とした貧しい島に、妹と一緒に暮らしている牛飼い中年男パードック。彼は突然、何の前触れもなく年上の友人、コルムから、絶交を言い渡される。毎日午後2時になると、たった一つのパブでおしゃべりしながら何十年も過ごしてきた仲の良い友達だったのに。

 

 訳が分からなくて戸惑うパードック。見るほうも「何故?」という謎に包まれる。物語はコルムの突然の絶交の理由は何なのかという疑問とともに進んでいく。

パードックは友情を取り戻そうと、コルムに対話を試みるが、驚くべきことに、コルムは話しかけることも拒む。更に近づけば自分の指を落とすと宣言する。実際にコルムは自ら指を切り取ってパードックの家に投げつける。

 

 この作品は主役のパードックではなく、老人のコルムの視点から考えると腑に落ちる。

 

コルムは老いた。最果ての島で、あと何年生きていられるのか。死は着実に間合いを狭めてきている。慄きながら、自分の人生を振り返って、驚愕する。

 家族もなく、成し遂げたこともない。毎日という時間をなんとなく消費してきてしまった。自分はなんのために生きてきたのか。そこで、もっと、きちんと生きなければと決心する。

 自分の生活を振り返ると、毎日パブで無駄話をしている自分が嫌になった。だらだらした時間を過ごさせているのはパードックがいるからだ。理不尽にも、パードックを憎くんだ。

 コルムからすれば、パードックは、凡庸で、本も読まず、毎日何事もないように変化も望まず、食べて飲んで、日々を消費している。、突然、嫌気がさす。そこで、一方的に絶交宣言をする。

 

 パードックの気持ちを考えない全くのエゴイズムからくる行動である。

 これは、夫婦関係で考えると良く分かる、人生のお終いごろに、妻、あるいは夫に嫌気がさす、それは前触れなくやってくる。

 

物語は、寂しい、未来を閉ざされたような島の上で、パードックの妹や、言い寄る青年、その父親を交えて、様々に変奏する。

 友情を裏切られたパードックの行動は、じりじりと、攻撃性を帯び、危険な色合いを帯びてくる、このあたりがサスペンスフルで恐ろしい。

 多義的な要素を含んで、ずっしりと重い作品だ。アカデミー賞にノミネートされている。脚本賞と、撮影賞をあげたい。