イチコロでセリーヌ・シアマに堕ちた前作「燃える女の肖像」に比べて、今回はなかなか作品のテーマがつかめないで、ディーセントな画面に心奪われつつ、当惑しながら彷徨っていた。が、ラストのヒロインの一言「さよなら」で、氷解。気が付くのが遅すぎる。冒頭のシーンで何回も言われていたではないか。

 

 亡くなったお祖母ちゃんの死に目に会えず、「さよなら」が言えなかったネリーちゃんの心の屈託を映像化、視覚化したのだと気づいた。8歳の少女の亡くなった人に対する心の喪の作業だったのだ。grief careを見える形にして表現したのだ。

 

 しかしながら、セリーヌシアマの語り口は、前作もそうだったが、suspensful。見ているものは「なんだろう」と常に宙刷りにされた不安に追い込まれる。

 

 美しい森の中で、母と同じ名前を持つ自分とそっくりの少女マリオンとの出会い。二人でひたすら小屋を作ったり、クレープ焼いたり、ゲームしたり日常のの動作が愛くるしい。二人が来ているセーターやズボン、ジャンパー、たっぷりとした髪の毛、ふっくらした頬、家の装飾、クリアに開けた森の佇まい。

 

 これって何なの、作者は何が言いたいのと、腑に落とそうとしながら、見続ける。

この語り口、 平坦な物語展開はカタルシスを与えてくれないし、観念的ではあるので、人によっては、狐につままれたようで、すっきりしないかもしれない。

 

 静謐な美しいシーンの一つ一つは心の中にしまわれた宝石のように、ときどき、目の裏に甦って、幸せな気分をもたらしてくれるだろう。只者ではない、セリーヌ・シアマ。次回作はどんなだろう。ドキドキして待っています。