「翼ある人びと」のブラームスは、憧れのベートーベンを乗り越えて、翼を伸ばして、新たなる世界へと飛んでいきました。
上田久美子さんも宝塚ファンの胸にたくさんの感動を残して、新世界へと飛び立ちました。これからももっと楽しませてくれるかと胸弾ませていたのに残念でならないです。
しかし、上田作品に対する自分のブログを読み返していたら、すでに、「神々の土地」のブログで、退団の予感を書いていました、びっくり。
「これだけの才能は宝塚の座付き作者をはみ出していくだろう」と。
宝塚ファンとしては残念ですが、演劇界にとって、最高の戯作者を迎え入れることになるのだから、悲しいお報せを聞きながら、新たな楽しみになりました。
久美子先生は多彩な視点からオリジナル作品が書けるんですね。そして、演出は歌舞伎的手法を用いて、様式性をもって優美、華麗であります。
歌や踊りは少ないけれど、物語がしっかり書ける。理知的に構成され、テーマがはっきりしていて、尻切れトンボにならず、しっかりとカタルシスがあって、しかも、大胆な省力で心を揺さぶる。
最初の作品「月雲の御子」は名作の噂が高かったので師走の寒いころ、天の洲アイル劇場へ飛んで行きました。
物語も、舞台美術も、アラ削りな感じはありましたが、新しい書き手があらわれたなあと、嬉しかったです。
二作目の「翼ある人々」はブラームスの人間として、音楽家としての成長物語と、クララとの許されざる恋を描いて、圧巻。一気にまぁ様とうらら様に落ちてしまった。あてがきが上手いのですね。とまあ、書いていくときりがないのですが、一番好きなのは「神々の土地」です、今思えば、神々が宿る茫漠としたロシアの大地、合理性では語れない人々の姿が今の戦争するロシアに重なります。
非合理性といえば、幕開きの、雪が舞う荒野でのドミトリーと、イリナのダンス!!リアルな会話からのダンスで、仰天しました。赤いじゅうたんを敷き詰めた階段での士官たちのダンス。ラスプーチン殺害。歌舞伎の殺し場そのものでした。ラスト近くのドミトリーと、イリナの暖炉の前のラブシーン。心が震えました。
物語が終わったラスト、斜幕の裏で登場人物たちがみんな現れて、にこやかに笑いさんざめいている光景に涙がこぼれた。
ラスト作品になってしまった「桜嵐記」は上田作品中、最高傑作でありましょう。これを書いたら、宝塚での集大成というか、もう思いの残すことはなくなったのではないか。
ブログでも書きましたが、新歌舞伎として、歌舞伎座で上演してほしいと本気で思いました。ヒーローか、ヒロインは尾上菊之助さんで是非お願いしたいです。
格調高く、華麗で、しかも、忠義と、孝行という、武士の信条に絡めとられ、うまく立ち回れない無骨な男の生きざまが美しい舞台の中で描かれ、楠木の歌なんぞ、涙なくしては聞いていられません。正行さん兄弟は誰がいいかな、配役は楽しみながら考えます。
しばらくヨーロッパで勉強するようですが、来年ぐらいには、新作を目にしたいですね。帝劇か、クリエか、それとも、PARCOかコクーンか、どんな形で御披露されるか、期待してやみません。