梅枝さん扮する花魁のお紺、恋しいお方がやって来たと知って、のれんを上げて、座敷に出てきたときの華やかさ。会いたい心が動きにあふれ出ていて、こちらの胸が痛いほど。顔は正面、体をよじって座り、じっと会話を聞いている時のなんとあでやかな佇まい。 美しい立女形は歌舞伎の花だわねえと、ため息をつく。

 働き盛りの菊之助さん、七之助さん、梅枝さん、若手の右近さん、米吉さんとか、今回の莟玉さんとか、綺麗な女形が続いていけば、歌舞伎は安泰かも。

 

そして、奴の林平を演じる弟の萬太郎さん、今までまるで知らなかったのだけれど、まあ、動きの良いこと、ゴムまりのように弾む力強い筋肉が想像され、その愛嬌のある役者ぶり。もっと、注目して見ていればよかった。

 

昔から、時蔵さんが好きで、出てくると嬉しかった。というのも圧倒的な美貌と、品格。気高くって、しかも奥ゆかしい、今回の仲居の万野、したたかな年増女で、悪役なのに、芸の奥に漂う品位。 歌舞伎は役者あってこそ。

 

 この狂言は、昔、仁左衛門さんが主役の「福岡貢」をやっていて、玉三郎さんが出ていたので、てっきり花魁の役だと思っていたら、万野で驚いたことがありました。お紺は誰だか忘れましたが。でもしたたか万野と貢とのやり取りが面白かったのが思い出されます。

 

 妖刀に操られてのラストの大量殺人、髪をザンバラにして苦悶する血まみれシーンを楽しむとは、歌舞伎とはおかしな芝居だとつくづく思います。

 

 国立劇場は空いていること多いけれど、昨日ほどガラガラはびっくり、一階席の上手の前から数列は客入れてないし、下手側もかなりスカスカ、二階も二列ぐらいで、三階も二、三列くらいの客入り。

 それでも、掛け声こそ自粛ですが、出や入り、見栄を切る場面では大っきな拍手が入りました。、芝居好きが見に来ているのだわと、嬉しくなりました。 コロナよ早く消えておくれ。