ロブスミスの「チャイルド44」を数年前に読んで、スターリン時代に民衆が大飢饉にあって数百万人が亡くなったことを知った。
ホロドモールという呼称まである、歴史的大飢饉を世界に公表しようとして戦ったジャーナリストを描いて、報道する者の在り方を問うている。
ソ連当局はその事実を世界から隠蔽しようとして、様々な工作をしていた。事実をつかんだ西欧の記者を殺害し、アメリカのジャーナリストを懐柔し、飢餓の事実を報道させない。ソ連経済は順調で社会主義経済は成長を続けているとフェイク記事を書かせる。
真実を知ったフリージャーナリストのジョーンズは事実を世界に知らせようと思うが、ソ連当局に英国人を人質に取られているので、公表できない。
英国政府に知らせても、政府はソ連やドイツとの国際関係を優先して、この大飢饉の報道を禁じる。
この作品のポイントは、スターリニズムの糾弾ではなく、真実の公表を阻む勢力との戦いである。 壁の厚さに押しつぶされそうになりながらジャーナリストとしての自分はどう立つかと、格闘し、ついに、記事を発表してくれる新聞を見つけだす。
今の時代はどうか。フェイクニュースが飛び交う世界。そして、日本では、記者会見でまともに首相に質問できない政治記者たちの体たらく。政府に批判的な意見を避ける、NHKを筆頭にしたメディア。彼らはこの映画を見られないだろう。時の権力に取り込まれて、提灯記事を書く自分が恥ずかしいだろうから。
監督のアグニェシカ ホランドの語り口が魅力的だ。音楽と一体化した抽象的映像処理を取り入れたり、モノクロタッチを取り入れた技巧的な画面。
飢餓に苦しむ雪に覆われた冷たいウクライナの村の描写は、あらわな、むき出しのドキュメンタリータッチではなく、飢餓の実態を子供たちの歌で表現したりするポエティックな表現法をないまぜる。抑制的であるからこそ事実の惨酷さがより一層胸迫る。