ポスト・ハーベスト農薬は、農薬と言われるものの中でももっとも誤解と批判が根強くある一つです。実はこれは、日本では農薬ではなく食品添加物扱いなのですが、まあその違いはとりあえずどうでもいいとしておきます。
このポスト・ハーベスト農薬に関しては、コンテンツとしては美味しんぼを取り上げたときに一度書き、その他コメント等でちょこちょこ書いたことはありますが、もうちょっとちゃんと書いてみます。まあ、結局はいつもと似たような内容になるのですが。
ポスト・ハーベスト農薬とは簡単に説明すると、作物の収穫後に防虫・防黴(カビ)を目的として使用されるものです。これに対して、収穫前に使われる一般的な農薬はプレ・ハーベスト農薬となりますが、そういう言い方をすることはほとんどありません。日本国内では保管の為の薫蒸剤以外は使用が禁止されていますが、海外から食物を輸入する際に使用されることがあります。ただし使用される対象は、かんきつ類と穀物など一部の食品に限定されています。
収穫後に使用する農薬なので残留の危険が大いにあり、危険な物質が大量に残留する形で使用されている!と言った感じで批判されています。強力な発ガン性があると言うのも必ずセットで紹介され、この認識は相当の根強さを持っています。長年「あるある大辞典」を批判してきた
、ということはそれなりに科学的な考え方が出来ると思われる人でさえ、ことポスト・ハーベスト農薬については危険であるとの認識を示しており、驚かされます。
また、最初に書いたとおりポスト・ハーベスト農薬は農薬ではなく食品添加物として扱われているのですが、そのため農薬取締法の対象外となり、国内では規制されていないも同然なのだ!と言う批判もあります。
しかし実際にはこれは、収穫後に使用されるという理由でむしろ、食品の安全性を大きく高める役割を担っていると言えるほどのものです。
さて、まず批判について取り上げますが、収穫後に使用するため残留しやすい、と言うのは一面の真実ではあります。普通の農薬使用にしても、全く同じ薬剤を収穫2ヶ月前に使用するのと1週間前に使用するのとでは残留量が変わるのは当然です。通常の農薬は使用時期が決められており、例えば収穫1週間前までの使用のみに限定するなどの配慮がなされています。
ただこれは、同じ薬剤を違う時期に違えば残留量が変わる、と言う話であって、遅く使えば必ず多く残留すると言うことは意味しません。分解しやすいものなら遅い時期に使っても大丈夫だし、なかなか分解しないものだと早期にしか使えません。
先ほど書いた使用時期の規定は、その農薬の分解性に拠って、作物に残留しないように配慮され決められています。何がいいたいかと言うと、大事なのは作物に残留するかどうかなのです。
使用時期が遅ければ残留しやすい、一面的には確かにそうでしょう。しかし最も大事なのは実際の残留実態なのです。輸入農産物の残留農薬の実態は各都道府県の食品衛生検査所などのウェブページで見ることが出来ますが、どこの結果を見ても、ポスト・ハーベスト農薬が残留基準値以上に残留していたと言う事例など見つけることは出来ません。
例えば:
愛知県食品衛生検査所 http://www.pref.aichi.jp/shokuhinkensa/noyaku/boukabi.html
東京都市場衛生検査所 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/itiba/kensa/rikagaku/boukabi/boukabi.html
横浜市衛生研究所 http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/inspection_inf/200406/0406.pdf
(pdfです)
岐阜県保険環境研究所 http://www.pref.gifu.lg.jp/pref/s11222/syokuhinkennsa/residue/H17/17index.htm
高知県 http://www.pref.kochi.jp/~syokuhin/16shokuhinkensa.pdf
(pdfです)
次に発ガン性ですが、まあ普通の農薬でも発ガン性があると批判されることがありますが、それとだいたい似たような傾向です。発ガン性試験で陽性が出たからポストハーベスト農薬には発ガン性があるとの理屈です。
こんなのはそもそも、発ガン性試験がどういうものか知らない為の妄言であって、つまり発ガン性試験とは、ラットに対して「ガンが出来るまで」被検物質を与えて、そのガンが出来る量を調べるのがキモで、少ない量でもガンが出来るなら発ガン性が強い、膨大な量を投与しなければ出来ないなら弱いとなるのです。
代表的なポストハーベスト農薬であるOPPやOPP-naの発ガン性試験が陽性になるのはその通りでしょうが、非現実的なほどの量をラットに与えて初めてガンが出来るのであって、それを以ってOPPを禁止しなければいけないというなら同様に食塩なども食卓から追放しなければならないでしょう。というか、追放せずにおける食べ物など無くなります。
ちなみに、IARCの発がん性リスク一覧によるとOPPはグループ3、OPP-naはグループ2bに分類され、これらは普通は発ガン性物質とは呼ばれません。ついでにグループ2bはコーヒーと同じグループです。
もちろん、農薬が原因でガンになった、などという話も聞いたことがありません。余談ですが、発ガン性物質と言われる物質は「どこにガンが出来るか」と言う情報が重要ですが(タバコなら肺がん、肉の脂肪分なら大腸がんなど)、農薬がどこにガンを発生させるかなどという話も聞いたことがありません。
で、今回ポスト・ハーベスト農薬のことを書こうと思い、適当にポストハーベスト農薬でぐぐって見たのですが、まあポストハーベスト批判があるわあるわでザクザク見つかり、ほとんどがどこかで見たことのある類型的な批判ばかりでしたが、なかで「ポストハーベストは規制の対象になっていない、野放し状態なのだ!」としているものがいくつも見つかり、びっくりしました。関連法規も何も知らない、バカの集団なのですね。そんな人たちが食べ物を売ってたりするのですが・・・
言うまでも無いことですが、ポスト・ハーベスト農薬は農薬扱いではない為に、確かに農薬取締法の規制は対象外ですが、もちろん食品衛生法によって規制され、ポジティブリスト制度に基づいて残留基準が設けられ、厳しく管理されています。ポジリス以前にもちゃんと残留基準値はあったのですが、野放し状態とはいったい何を見てそう言っているのか理解に苦しみます。
さて、ポスト・ハーベスト農薬を批判する人はいつもの通り、リスクを過剰に喧伝してメリットについては完全に無視するのですが、通常の農薬は直接消費者のメリットに繋がるものではありませんが、ポスト・ハーベスト農薬の場合は事情が異なり、かなり直接的な恩恵があります。最初に書いたとおり、防虫・防カビです。
輸入食品にのみ使用されていると言うのは正当な理由があってで、海外からある程度の期間をかけて海を渡ってくる食品に、何もしなくても新鮮なまま届くと考える方が不思議です。いかに注意を払ってもカビが生える時は生えるし、虫が湧くこともあります。虫食いがあればそこにもすみやかにカビが生えます、見た目にもはっきり分かるカビはまだいいのですが、目に見えずとも生えているカビというものもあり、全てを排除することは非常に困難です。
カビが生えれば、カビ毒が発生します。カビ毒のことを総称してマイコトキシンと言いますが、このマイコトキシンの中には、ポスト・ハーベスト農薬を遥かに越える毒性を持つものもざらにあり、とくに穀物やナッツ類に生えるアスペルギルス・フラプスと言うカビから産生されるアフラトキシンというカビ毒は、天然物の中で最強の発ガン性を持つといわれており、煮ても焼いても減りません。
ポスト・ハーベスト農薬が嫌な方は、どうぞ未使用トウモロコシを食ってください。私はアフラトキシンのほうが怖いので、ぜひOPP使ってくれって言いますけどね。
koume