自然いっぱいな中山間地でつくられた農産物は評判がいいです。実際の品質については、個人的にはつくる場所よりもつくる人の影響のほうが大きいのではないかと思いますが、山奥の田んぼの米のほうが美味しかろうと情緒的に感じるのもまあわかります。しかし新規に農業を始めたいという奇特な人がいたとしたら、絶対に中山間地はお勧めしません。
もっとも現在、親が農業をやっているなどといった地盤が無い人が、空手でいきなり農業をやると言ったとき、その選択肢は農業法人への就職ほぼ一本しかないと思います。で、ある程度の規模を持つ農業法人はほとんど農業地帯というか、平地にあります。簡単に言ってしまえば中山間地は業としての農業に向いていないからです。
うちは中山間地で農業をやっているので、なんだか自分自身を否定しているかのようですが、まあだからこそ規模拡大・コストダウンな農業にはなじめないのかもしれません。中山間地を拠点とする農家が大規模経営と言うのは相当に高いハードルがあります。
○農地が集まらない
中山間地ならではの条件はいくつもありますが、大規模化できない理由としてまず農地のまとまりの悪さがあります。中山間地といえばまあド田舎ですが、ということは地域にまだ農業をやっている人が多いということです。
それでも専業でやっている人はほとんどいませんが、皆さん農地は自前で、数枚の田んぼや畑を趣味半分でつくっています。つまり中山間地には農地そのものがあったとしても、それらのほとんどが生きていて、しかもムチャクチャ細切れに分割所有されているということです。さらにド田舎特有のねばっこい人間関係もあり、そこで「ワシに農地を全部任せてくれ!」と専業農家が立ち上がっても絶対にまとまりません。
○移動がたいへん
ということは離れた場所に農地を求めることになるのですが、まあどこに言っても外部の人間に気前よく土地を貸すところはそうありません。そうは言っても昨今の農業離れですから、あるにはありますが、やっぱり1箇所だけでイケル!というようなところは無く、うちの場合は大ざっぱに分けて4箇所に農地が分散しています。
各農地への移動時間がかかるという話もありますが、それよりも深刻だと思うのは、大型の農業機械が使えないことです。何故なら、農業機械は分散した各農地へ移動できる必要があり、つまり手ごろな手段で移動できるものしか使えないのです。うちの場合は2トンダンプに載らないサイズのものは不可になります。
もちろん、専用の大型搬送車両などあれば別ですが、ものすごく高いですし、大型免許(大型特殊?)も必要となるともっとハードルが上がります。中山間地の道路の狭さも無視できません。普通車でもすれ違いに難儀するような場所なんてしょっちゅうです。
これが平地の農業地帯を拠点とした集約地での農業を考えるならば、その近くに蔵でも建てて機械を入れておけば良く、移動のことを考える必要などありません。
○田んぼそのものがたいへん
前の項目で農業機械について少し書きましたが、基本的に農業機械というものは長方形の田んぼで最も能力を発揮します。が、中山間地の農地で完全に長方形の所など滅多にありません。つまりただそれだけで非効率的です。
また、取水もたいへんです。以前、農地は水がキモだというようなエントリを書きました。当たり前ですが水は高いところから低いところへ流れます。そもそも高い場所にある中山間地へ水を引っ張ってくるのは並の大変さではありません。
普通、理屈から言って農地は水が取りやすい川のそばに作るものだろう、と思うのですが先人達は何を考えたのか、とんでもない所からとんでもない所へ、とんでもないルートで水を運んであることがあり、私が知る実例はこれです。
http://xurl.jp/1g6b
Bが水源で、A付近まで水を運んでいる格好です。示したルートは道路であって、水路は道路どおりに行っているわけではありません。というか、マップでは道路以外の場所を指定できないのでこうなっていますが、実際にはB地点から獣道を歩いて30分くらいの所に水源があります。また地図ではわかりにくいですが、ルート途中のアップダウンが相当あり、よくもまあこんなところに水を通したとあきれるほどです。なにしろ水路の途中に一箇所でも登り勾配があったら水は流れませんからね。
ここでは、水路を作るのが大変と言っているわけではなく(もう出来てますからね)、問題はこれを維持するほうです。こういう水路は、利用している人たちが総出で年間最低2回以上は全ルートをチェックして、落ち葉や砂や石などが詰まっていないかとか、獣道の草を払って通れるようにするとかいろいろしないとすぐ使えなくなるのですが、要するに地域の人たちが農業をリタイアして管理しなくなると瞬時に地域の農地全体がアウトになってしまうのです。
○人付き合いがたいへん
そういった水路や農地の管理は個人でやると大変すぎますし、また仮に新規でこういうところに入る場合は自分なりに水のルートを把握する・管理するなど不可能でしょうから(教えてもらわなければどこにどう水が通っているかなどわからない)、地域の人たちとの連携が絶対必要ですが、上のほうにも書いたようにド田舎の人間関係はそれはもううっとうしいものです。知ってる人には常識ですが、田舎の素朴で美しい助け合い精神なんて大嘘ですからね。
ほかにもあるかと思いますが、目立つところはこんなものでしょうか。移住しちゃえば、と思われるかもしれませんが単に住居を移すだけでなく、引越し先で広大かつまとまった土地(20haくらい?)を取得する必要もあり、当然良い条件の農地によそ者向けの空きなどないため難しいです。
なのでまあ、中山間地での農業は面積を絞って単価で勝負する形になるのです。・・・が、ほかの先進農業国の条件に比べれば日本の農地全体が似たようなものと思えなくもありません。