方丈海氏による小説集『いずれ死ぬ君のために』。


数行で完結する小説と一七〇以上にも及ぶそれらを一作に束ねる「いずれ死ぬ君のために」という約二〇頁の小説とが収録されている。


答えが仄めかされた謎かけとして私は読んだ。読んでいる時の心境を例えるなら、新しい職場の建物にやってきた私が、「案内しますね」と微笑む係の人についていったものの、まだ数フロア歩いただけで細かな構造も何も分からないうちに、「これで以上です」と唐突に去られ、一人きり取り残されてしまったような感覚だった。係の人が去り際に落としていったメモ書きから何となく建物の構造を推測して歩くような読書だった。メモが小説のような形を成していて、内容はそれを解釈する人の経験や常識、想像力が問われているような感じだった。断言のない短い言葉が謎を含んだ事実を淡々と伝えている。謎のない小説もあるけれど、なぜだか謎のある方へと引き寄せられて私は歩いていった。でも、読む人によっては、「それらにも謎はないよ」と言うかもしれないし、または、「あなたが謎はないと思っている小説にも謎はあるよ」と言うかもしれない。短い小説は何らかの物語の途中から始まり、途中で終わる。物語の始まりも終わりも小説には描かれていない。その空白を思い描きながら、頁をめくっていたら、時間の経過を忘れていた。自分と同じような境遇の人がいるなら、小説が仄めかす物語について、その人と話し合いたい。