『太陽帆船』は中村森氏の短歌集。

六つの章の中にいくつかの節が並び、それぞれの節の中で言葉の音が響き合っている。読んでいたら目の奥がじんとした。言葉が散り散りになってしまいそうな気持ちを繋ぎ止めてくれた歌の余韻に浸っていたい。この余韻に心を預けるように言葉を残していく。

一度出会えばずっと祝祭
言葉が終わった後に世界が明るく見える。重りを繋がれた気持ちが言葉の音節に連なって前を向き始める。

仮説ムーンライト
いつのまにか自分の想いを遠くに置いてきていた。忘れたことに気づいて、取りに戻ったら、それは、もう会えないかもしれない人への想いだった。

君だけずっと無敵でいいよ
笑って、俯いて、呟いたら、また笑って――。

想像よりも美しい君
言葉が自分の気持ちとも現実とも釣り合わない時がある。それを自覚するための言葉にも裏切られる。でも先に裏切ったのは自分の気持ちだったかもしれない。いっそ言葉など無ければ良かったという気持ちさえもが言葉であることに絶望する。

コーリング
歌の前に言葉があって、想いがあった。それへの応答としての独白は決意の響き。

花冠を編む
鈍った心を刺す歌。でも、その痛みは歌の中で救われている。


君が飼ってたポメラニアン
不在を歌うには自分の中にある想い全てを歌わないと――。ただ、それはほんの小さな穴を確かめるようなこと。

逆光サンライズ
言葉は傾いた心を正すため。その平衡は二面性に揺れ続けている。

鈴が降る国
礼儀も恩も知らない怠惰な関係。自分に縁のない気持ちも認め合える関係。

食べ飽きて、眠り損ねた
生活にさりげなく侵入してくる君の影にさりげなく抵抗したい。


エメラルドの文鎮
後悔の歌が美しい、というのは罪なのだろうと思う。けれど、その罪を受け入れているからこその清々しい余韻。

使い終わった言葉の果てに
言葉が言葉を研ぎ澄ます。

これから信じる感情のために
誰かとの別れ際の場面を想像した。これから何かが始まる予感、始めようとする決意。


真珠星
君への憧憬が身の周りに並んだ言葉を結ぶ磁場を作る。それは一個の星となるだろうか。

ミリオン
その場に自分がいることを認めていたい風景を歌う。

この星は無風
言葉が途絶する感じ。季節が巡っても変わらない終わりを見据えている。

すべての季節は春の中
もしも、乾いた葉が道に積もり、身が凍えるような風が吹き抜けていく春があったなら、それは、どのようなものだろう。


土足で入る湖だった
形容を重ねて、重ねて、隠喩が瞬く。

猫の瞳の青さで泳ぐ
純真な気持ちが言葉の氾濫の中を綺麗に泳いでいく。

クリスタル・フルムーン
少し離れた場所から、でも誰よりも近くで君を愛でていたい。

ハピネス
いくつでも語れると知るなら、語ることは少なくなる。残るのは感謝と愛惜と希望。

グッドフライト
君の好きな物が私の好きな物。君と関わりのある物全てが歌になりそうな幸せな気持ち。

雨の島
何の感情とも縁がないような家事や食事の行為に祈りが込もる。