15年4月21日寄稿文

 

スリランカとのご縁

昔から私の家族は、スリランカと不思議なつながりがあります。母方の祖母の姉、吉田多輝子は、スリランカ僧との縁で、仏教精神に基づいた幼児教育施設の建設を通じ、スリランカの幼児教育の発展に貢献しました。その後、外交官であった父の最後の海外勤務地がスリランカ(1994~1997年)であり、現在、国連開発計画(UNDP)に勤務中の妹が、世界的な援助団体であるケア・インターナショナルにいた時に、最初に取り組んだ開発援助プロジェクトがスリランカで、両親の駐在期間と重なったこともあります。そして、現在、私が勤務している株式会社生活の木は、アロマとハーブ商品およびサービスを提供する傍ら、スリランカに所有するホテルを通じて、ナチュラルライフの提案を行っています。

Hotel Tree of Lifeは、古都キャンディの町から20分ほど小高い山を登ったところにあります。“More than a hotel a state of mind”というコンセプトのとおり、新鮮で澄んだ空気と太陽に輝く緑の茶畑は、そこを訪れる人の心までを癒し、生きる幸せと歓びで満たしてくれます。今年、Hotel Tree of Lifeは、創業20周年を迎えます。

 

アーユルヴェーダとの出逢い

現在も私が年に2回程スリランカを訪れる理由に、スリランカの伝承医学であるアーユルヴェーダの普及活動があります。アーユルヴェーダとは、3千年以上の歴史をもつ東洋の医学体系ですが、人がより良く生きるための知恵、「長寿の為の健康法」ともいえます。スリランカでは、1961年に制定されたアーユルヴェーダ法31条の下に、伝承医学省の中にアーユルヴェーダ庁を設けています。2007年、私はこの伝承医学省に席を置くアーユルヴェーダ医師、ダニスター・ペレラ氏(当時、Registrar Ayurvedic Medical Council)を訪ね、日本アーユルヴェーダ普及協会(通称JAPA)との提携として、アーユルヴェーダ海外研修プログラム実施への協力を要請してまいりました。厳格な表情の同氏に対し、本来ならばアーユルヴェーダを修得するには12年以上もかかるところを12日間に凝縮してほしいと無理難題を突きつけて逃げ帰ってきたのを突き付けて逃げ帰ってきたのを覚えています。その後、ドクターが肝要なお人柄の親日家であった為なのか、私の熱意が伝わったのか、翌年、私は第一回目のプログラムの通訳として、11名の参加者と一緒にスリランカに渡ることになりました。以後、年2回に実施されるプログラムが今年、15回を迎えます。

プログラムの開会式挨拶では、よく次の様に話します。「アーユルヴェーダは海のように広く深い、生命に関する叡智です。今日、インターネットや本などでもアーユルヴェーダに関する情報が簡単に入手できるようになりました。しかし、文字で表されるアーユルヴェーダの智恵は、その膨大な知識体系の微々たる部分、表面的な部分にしかすぎません。アーユルヴェーダの教えや哲学は、自然の中に存在します。アーユルヴェーダを頭で理解しようとするのではなく、五感で、全身全霊で感じてください。」

 

スリランカのアーユルヴェーダ

スリランカの豊かな自然の中で行われる、アーユルヴェーダ・プログラムの朝は、鳥のさえずりから始まります。ベランダにはリスが挨拶にきたり、授業中は猿が物珍しそうに教室をのぞいたりします。自然豊かな環境の中で、プログラム参加者は、日々の多忙な生活で忘れかけていた“感じること”、“味わうこと”、“息を吸うこと”という微細な感覚というものを取り戻し始めます。夜は、満天の星が瞬き、地上では蛍がふわりふわりと飛びます。奥行きのある星空を見上げていると、宇宙の大きな存在や力が働いているように思え、ちっぽけな自分の悩みなどが一気にどこかに消えてしまうようです。まさにアーユルヴェーダの哲学にあるように、プログラム参加者は宇宙と自然との調和によって、健康と幸せに満たされることを体感するのです。アーユルヴェーダでは、「病気」とは、自分自身の心と身体、人と自然、人間と宇宙との不調和によって生じると考えます。自然と寄り添い、宇宙と自我のつながりを感じることによって、人は本来あるべく状態にリセットされます。アーユルヴェーダは、病気の治療や予防を含む医学体系でもありますが、心や身体に溜まった不要物、老廃物、疲労物質などを一掃してくれる、「究極のデトックス法」なのです。

 

日本の「和-ゆるヴぇーだ」を求めて

今日、65歳以上の人口が占める割合を示す高齢化率は26%に達しました。高齢化社会の問題は確実にやってくる日本の課題です。他方で、世界一の長寿国となった日本の現代社会では、生かされる為の技術や医療ばかりが先行して発展してしまっているように思うのです。本来ならば、「如何に豊かな幸せで健康な人生を送るか」ということの方が生きる上での目的であり、需要なことではないでしょうか。

昨年、香によって嗅覚神経の再生が可能であり、特定の香が認知症予防に効果を発揮するということが研究成果として発表され、話題を呼びました。その香りとは、ローズマリーとレモンの香りを2対1の割合でまぜたブレンドを昼の2時間嗅ぎ、ラベンダーとオレンジを2対1でブレンドしたものを就寝前の夜の2時間嗅ぐという内容です。

3-4世紀に設立されたといわれるアーユルヴェーダの古典、スシュルタサンヒターには、「健康とは五感が至福な状態である」

といったようなことが書かれています。五感とは聴覚、視覚、触覚、嗅覚、味覚を指しますが、中でも嗅覚は、人間の最も原始的な情操や記憶に関する感覚器官です。アロマテラピーは、西欧の自然療法として発展しましたが、アロマテラピーを用いてアーユルヴェーダの知恵を実践することもできるのです。日本に帰ると、スリランカで経験した毎日とかけ離れた生活に、アーユルヴェーダの実践は無理だと落胆してしまう方もいらっしゃいますが、決してそんなことはないのです。

アーユルヴェーダは古びた智恵ではなく、古くからの生命に関する叡智が、その国の文化や伝統によって深められ、熟成された体系といえるでしょう。自分が自分らしくいられ、自然や宇宙との繋がりを感じるためには、ときに、自然の奏でる音色や、視覚的な美しさや、そよ風の心地よさ、大地や樹木の香り、新鮮な空気や水の美味しさといったように、五感で自然を感じられるような環境に身をおくと良いでしょう。スリランカにはそういう環境があります。しかし、同時にスリランカの自然は、日本にもある自然に目を向けさせてくれます。そして、私たち自身(人間)のなかの自然に気づかせてくれます。アーユルヴェーダを通じて、私は日本とスリランカの多くの共通点に気がつかされました。