まず、お詫びがひとつ。。。
今まで、焔舞は金魚でしたが、よくよく考えれば、金魚は平安京に存在する生き物ではない。。。
ということで、急きょ、赤い何かの魚、になりました……。
また、一話で式神と表記してしまったところも式に直させていただきました。
ごめんなさいです。。。
そして!!!
釣鐘草としては珍しく、、、前回の予告通り、進展のある内容、予兆だらけの展開になりましたよ!!!
アレですよ。アノ祭祀ですよ。まだ執り行わないけど、ちょいちょい匂ってきましたよ(*^^*)
というわけで、本編へどうぞ~。
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21、二匹の訳
――人の魂には本能に勝る情がある。人の魄にはもしものときに身を捨てる覚悟がある。十の神宝はそんな人を信用したのだ。そして、世の平定の為されるを見届ける役目を持っている
小梢丸と夏苗丸の脳裏に狂花の言葉が蘇る。
「暁成はね、きっとこの重荷を降ろしたのかもしれない。そう思ったら、私、何も言えなくてね」
瑠樺はここへ来たばかりの自分の困惑を思い起こしているように言った。
「だから、きっとあなたたちの不死になりたいという願いも、きっと叶えてあげられないと思うのよ」
「しかし……わしらは」
「狂花様に会って、こう言うのじゃ」
二匹は口々に言って顔を見合わせ、頷きあった。
「「狂花様の横にずっとわしらをおいてください、と」」
予想外の言葉に、瑠樺が少々面食らう。
「え?どうしてそんなこと――」
「わしらはな、狂花様にこの霊魂を救われたのだ」
小梢丸は懐かしむようにしみじみと語りだした。
今から百年も前のこと、一匹の犬が死にかけた。否、牛車に轢かれた弾みで、魂のみが肉体を離れてしまったのだ。肉体は生きる本能しかない魄のみが残っており、無論それ以外の意思はない。つまり、行き場のない、水中で揺蕩う海月の如く辺りに浮遊している陰気が転じた悪気邪気の格好の餌食だった。それらがとり憑けば、魂の戻る場所はそれらに横取りされてしまい、助かる望みは断たれてしまう。
だが、無力な子犬ではどうすることもできず、このままでは肉体と魄は妖怪となり果て、魂はそのうち消滅してしまうのも時間の問題であろう。肉体から離脱した魂が諦観したそのとき、彼女は不意に現れたのだった。
「颯爽と現れた狂花様は本当にかっこよかったのじゃぞ!」
「わしはまだこの狩衣をもらう前で、その時のことはよく覚えてないのじゃが、それでも……」
当時の興奮そのままであろう様子の二匹の力説に、瑠樺は首を傾げた。
「水干?」
「そう。わしらは魂にはないもの、魄にはないものをこの狩衣で補っているのじゃ。」
「わしらはもとは同じだが、今は微妙に違う姿じゃろう?これは、この狩衣の性質が反映された姿なのじゃ。この狩衣はわしらの均衡が崩れすぎないように、わしには陰の気を、小梢丸には陽の気を与えてくれる。この紫は水の気、小梢の赤は火の気を表しているのじゃ」
夏苗丸の説明に瑠樺はまだわからない様子で考え込む。
「それをくれたのはその狂花という妖怪よね。でも、どうしてそんなものがあったのかしら?」
22、気を操る桜
「それは、狂花様が気を操る桜の木霊だったからじゃ」
「そうじゃったのう。あの木は素晴らしかった。木花開耶姫の御加護を受けているようにさえ見えた」
小梢丸の言葉に夏苗丸が同意を示す。
「気を操る桜?そんなことができるの?」
瑠樺は驚いて目を丸くした。
「……できるとも。神世と人世に跨り、通りすがる気を留める桜。『時忘れの桜』ならば」
瑠樺の疑問に答えたのは二匹の妖怪たちではなかった。その声が聞こえ始めると同時に、瑠樺の横に霞のような影が現れ始めた。その影はぼうっと白い光を帯びた少年の姿になる。智臣の式、焔舞と同じくらいの年頃のようで、常盤色の童水干に下げみずらを結ったその少年に、二匹は驚いたが、瑠樺は少し目を大きくしただけだった。
「月玉……こんな時間に起きているなんて、珍しいわね」
「その言い方では我が寝てばかりいるようではないか。だいたい、怪しい妖怪に関わるのは止めておけと言ったのに」
月玉と呼ばれた少年は不満げに瑠樺を睨む。月玉は瑠樺の持つ神宝、死返玉の付喪神だ。瑠樺は苦笑しながら「ごめんね」、と言った。月玉はまだ何か言いたそうにしていたが、そんな瑠樺を見て呆れたように溜息を吐いた。
暁成はこの日の講義を終えて、他の横笛生たちと談笑していた。家で色々なことが起こったからといって、とくに学業に支障が出るようなことでもない。暁成はいつも通りに雅楽を学び、友人たちの他愛もない噂話に耳を傾けていた。
「ああ、そうだ、これは聞いたか?どこの誰かわわからないが、陰陽頭や助でさえ成功させるのは難しいとされる祭りをしようとした形跡が打ち捨てられた邸で見つかったって話」
「あ、それ俺も聞いた!死にそうな人の魂を元気な人の魂と入れ替える術のやつだろ」
「そうそう!それだ」
友人たちが恐ろしいなあ、などと言いつつも好奇心で目を輝かせながら楽しそうに話している。暁成は初耳であったが、怪異事にはこれ以上関わりたくないので聞き流していた。
「なあ、暁成はどう思う?陰陽師って本当にそんなこと出来ると思うか?」
一人がそんなことを言いはじめ、誇張があるだの、そんなこと言うと祟られるだのとまた根も葉もない憶測が飛び交い始める。
「……俺は、まあ、あると思うけどね」
暁成がぼそりと言った言葉はその喧しさに紛れて誰の耳にも届かなかった。
23、智臣と焔舞
「焔舞、お前、何かしたか?」
陰陽寮を出て、帰路に着いた智臣が後ろを漂う魚に振り返らずに訊ねた。講義の後も文献を探す友人を手伝っていたので、辺りはもう薄暗い。
「……その姿じゃ話ができないだろ。それとも、わざと、か?」
智臣がじれったそうに立ち止まり、振り返ると、いつの間にか焔舞は金魚の姿から静かな水面を思わせる紺青色の童水干の少年姿になっていた。禿に切りそろえられた髪がさらさらと夜風に靡く。
「お前ごときの力で智臣を取り戻せると、本当に思うのか?」
智臣が彼が言うには少し不自然な言葉を口にした。焔舞は闇より深い漆黒の瞳でそんな智臣をじっと見返す。
「……智臣様に戻っていただくためなら、私は……」
「何でもすると?……できるものか。お前などに。できるものか」
答える智臣の声がいくつもに分かれ、風に乗って焔舞のまわりを飛び交った。まるで何匹もの妖怪が口々に「お前になどできるものか」と言っているように、多種多様な声音が焔舞にじゃれつき、纏わりついてはどこかへと消えていく。
「……できる。私には智臣様がついている」
「眠った魂など、敵ではない。我らの敵ではない」
智臣は敵意をむき出して焔舞を炯炯とした目で睨んだ。その口から出る言葉は、少年の少し高めの軽い声ではなく、重く、おどろおどろしい妖怪の声で紡がれる。そしてまた、反響を繰り返しながら
「ふん。お前だって魄に陰の気が入っただけの妖怪なのだ。我らと同じ存在なのだ。そんなものに何ができる?」
「そうだよ、焔舞。だいたいお前は俺に利用されるだけの存在だ。魄だけの身に『時忘れの桜』の気を入れられただけ。とっても不幸だ。智臣は、ずいぶん酷なことをする。君を無理矢理生きながらえさせたんだ。それも、魂という最も大事な中身を取り換えて。また取り換えられてしまうかもしれないよ?君ではない君にされてしまうかもしれないよ?」
初めの、もとの智臣の声に戻った ‟それ″が笑いながら焔舞の心を惑わそうとする。
「……私は、それでもいい」
焔舞は無表情のまま、小さく、噛みしめるように、自分自身に確かめるように言った。
「……智臣様は、我に選ばせてくれた。魄には意思がない、そう決めつけず、魂がなくともこの世に留まりたいかと、訊いてくれた。それだけで、いい」
24、泰山府君祭
焔舞のように魂と同じくらい魄にも意思がある霊など、まずいない。体を動かすのは魄ながら、優先させるべきは魂の意思。そんな魄が自分で好きなところへ行きたいと思うことをわかってくれる者も、まずいない。
だが、智臣だけは違った。焔舞の寿命が尽きかけていたとき、魂を時忘れの桜を通り過ぎていく陰の気と入れ替え、式とした。
真っ赤になった鱗は彼が火の気を内包している証なのだ。
「我は智臣様のように特別な鏡を使えたり、術を行えるわけではない。それでも、我はこの身の気をすべて使ってでもあの術を成功させる」
智臣がこうなったのは一年前ほどのことだ。彼は鏡を狙ってくる妖怪の存在に気づき、先手を打とうとして失敗した。焔舞は動きを止められて、それを黙って見ているしかできなかった。
その妖怪こそ、――狂花――。
暁成の邸で二匹の妖怪が口にした木霊の名と同じ名を持つ、恐らく同一の妖怪。
彼女が時忘れの桜の木霊だとは対峙したときに初めて知った。智臣は陰の気で囲まれ、その魂を焔舞の中に封じられてしまった。焔舞の陰の気と同化してしまった魂は取り出すことができず、やがて魄だけの智臣の体は魄と同じ陰の気を集め、悪鬼と化してしまった。
焔舞は智臣の魄と体を見守ることしかできない。
だから、焔舞が手を染め始めたのは、自分の中の魂、智臣の魂と智臣の肉体の魂の位置にある陰の気をとりかえることのできると思われる術。
――泰山府君祭――。
その昔、絶大な霊力を有したとされる陰陽師、安倍晴明が延命のため、寿命を取り換えるために行ったとされる秘祭。陰陽道において最も尊ばれる神の一柱、泰山。かの力を借りて魂を戻そうというのだ。
焔舞の核でもある陰の気は地の恵の気。地を通して智臣の中に巣くう悪鬼邪鬼の気を自分へ移し、陽の気の魂を祭祀の力で智臣へ送れば焔舞の術は成功だ。
だが、これをすれば、一度陽の気に触れ、その均衡をいきなり崩された焔舞の体は一時も持たずに朽ちる。
それでも、焔舞の決意は堅かった。
「……焔舞、自分を、捨てるな」
すっと智臣の表情が切なげなものに変わり、そんな言葉を口にした。それは、魄にもある僅かな意思の言葉だろう。だが、すぐにまた不愉快極まりないと言った不機嫌な顔になり、智臣はまた歩き出した。彼はもともと京の出ではなく、早くに亡くなってしまった父親が昔京に来た時は使っていたという邸に住んでいる。焔舞はやはり無表情のまま帰路を進んだ。
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はい、アレです!泰山府君祭!!!
いやー、もうこれ書くために陰陽語り始めたと言っても過言ではない!!
と言えるほど、書きたかったこの秘儀!この単語打つだけでわくわくしてきちゃいます!
そして漏れ出す私の下げみずら愛!この髪型ほど好きな髪型ってないんですよ私!(←限りなくどうでもいい……)
あの下の方でちょっと上に上がりつつのクルンで、それで終わらずにちょこっと垂らすあの感じに果てしない愛を感じるんです!
でもって禿も可愛すぎる。千と千尋のハク的な髪型!
そしてそして、なんか今回の引き、いつもよりかマシじゃないですか!?
こんなこと、もうないかもしれない、貴重な回なのですよ今回!!!
とか自分で言ってどうする、というか内容についてじゃないし……
とか言わずに、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
