最近は一人で孤独に賢治さんの作品を読み切ろう企画を計画してます……。うわ、孤独・・・。
賢治さんのエピソードといえば、一番ウケたのは懇親会の演劇の話ですね。
保坂さん脚本の演劇でその名も「人間のもだえ」。
そこまでは、いい。まだわかる。
保坂さんの役名が全能の神アグニもまだ…いや、自分に割り当てる役が全能というのも……さすがというのだろうか…。
しかし、賢治さんの役が全知の神ダークネスって……しかもはまり役すぎて後々まで語り草になるとか……衣装が全身真っ黒とか…。
これを知ったときはツボに嵌っちゃって大変でした。夜まで思い出しては吹いてました(*^_^*)
興味のある方はいろいろ調べてみてください。そして釣鐘草に教えてくだs・・・((殴
さてさて、長い前置き(?)になりましたが、今日はゆるゆる陰陽語りの続きでした。。。
ということで、相変わらずのグダグダですが、読んでくださる方、感謝です(*^_^*)
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25、悪鬼の考えそうなこと
――……焔舞、自分を、捨てるな――
「ちっ。まだ残っている」
智臣が陰陽寮で講義を受けながらぼやいた。昨日、焔舞に警告をしたのは魄に残る智臣本人の意思だった。それ以外にも、彼の意思は出てくる。暁成の邸へ飛び込んだのも、智臣本人の本能ともいえる意思だったし、何か陰陽の術を行使すれば、智臣の気が強くなる。暁成や珠緒と接するときも、智臣は出てこようとするのだ。それは、智臣の体を支配する悪鬼としては邪魔で仕方のないものだ。さらに、自分が逆に魄に制御されかけるのは気分が悪く、面白くない。
それならばと、この体を捨てようかとも何度か思った。
だが、それ以上に、人の形をして人の世を見ているのは面白かった。妖怪のように、いや妖怪よりよほど、清々しいほどの邪気を持ちながら、それをひた隠し、しかし、こっそりと陰陽師に呪詛を頼む雲上人たち。それを利用する者もまたいる。
妖怪を見下し、調伏し、式に下そうとする人間は、妖怪よりもよほど愚かしい。
そうやって人を愚弄できる場所はここぐらいしか思いつかない。
「やはり、人の世はなぜ斯くも醜いのだろうな。いつまで見ていても飽きの来ない程に」
いかにも下等な悪鬼の考えそうなことを呟きながら、智臣が口端を吊り上げて薄く笑った。
「……ねえ、あれって、智臣が連れていた魚の子じゃないかしら?」
暁成が出仕した後、市へ買い出しに来た瑠樺は、着いてきた二匹の小犬の妖怪、小梢丸と夏苗丸に向かって一人の少年を指さした。
「……たしかに、あれは、焔舞なる式ではないか?のう、夏苗の」
「ああ。しかし、人に見えないものが人の市へなど、何の用じゃ?」
見れば、焔舞は早くも勤務を終えたらしいどこかの官人をじっと注視している。
「あの人に何か用があるのかもしれないわ」
瑠樺がそう指摘したとき、焔舞はその人間の懐からはみ出した何かの符を引っ手繰ろうと手を伸ばした。瑠樺は驚き、慌てて注意しに行こうとする。しかし、良心に咎められたように焔舞はすぐ手を引っ込めた。瑠樺も二匹の妖怪もほっと、一息つき、焔舞の方へ向かった。
「あのお札みたいなものが欲しかったの?」
瑠樺が声を掛けると、焔舞は肩をびくっと竦めて、振り向いた。目には逡巡を浮かべ、黙ったまま瑠樺を見上げる。
「……今見たことは、誰にも言わないでください」
やっと口を開いた焔舞は小さく瑠樺に頼んだ。
26、五つの祭壇
瑠樺は少し迷ったように、また焔舞に問いかける。
「盗もうとしたの?どうして?智臣に頼んだらいけないの?……なにか困ったことでも――」
「言わないで……ください。お願い、します」
瑠樺の言葉を遮って、焔舞が深く頭を下げた。瑠樺は少し面喰い、また困ったような顔をする。
「……そんなに言うのなら、このことは誰にも言わない。でも、何か困っていて、智臣にも話せないときは、私に相談してくれてもいいからね?」
瑠樺が取り敢えずそういうと、ずっと無表情だった焔舞の顔に俄かに驚きの色が走った。
「だって、関係ないからこそ話せるということも、あるでしょう?」
瑠樺は柔らかく微笑み、ちらりと意味ありげに二匹の妖怪を見た。
「……はい。……この度のこと、いつか恩を返させていただきます」
焔舞はそうだろうかと疑問の滲む声で返事をし、礼を述べてからまたどこかへと歩き去っていった。
「大丈夫かしら、あの子」
瑠樺はその背を不安げに見送りつつも、夕餉のための食材を買うため、市をまた物色していく。暁成の邸には今は瑠樺と暁成の二人しかいない。もうそろそろ暁成も帰ってくるのに瑠樺も小梢丸も夏苗丸もいなかったらつまらないだろう。
そんなことを考えている瑠樺は、自分の懐から死返玉が零れ落ち、草の茂みに身を潜めてしまったことを知らない。
瑠樺たちの姿が見えなくなってから走って荒廃した山の麓まできた焔舞は土を盛って均しただけの祭壇にそっと手をついて息を整えた。
同じような祭壇が円形に五つ。それぞれに呪具と思われる幣や水を張った盥のようなものが置かれている。
「あとは符だけ……やはり、陰陽寮から――」
「そう簡単に持ち出せるか?幣やら麗水やらとはわけが違う。そんな強力な気を孕んだ符が動かされれば気付くものも多いだろう」
後ろから澄んだ高めの声が聞こえて焔舞ははっと振り返った。
「何者だ!」
焔舞に声を掛けた少年は不敵な笑みを浮かべながら、敵意はないという風に手をひらひらと振った。
「我は死返玉の付喪神だ。瑠樺からは月玉と呼ばれている。お前があんまり無茶をしようとしているから気になって見に来たのだ。……しかし、ここまで整えているとは――」
「帰れ!そうして二度とここへ近づくな!」
唐突に焔舞が声を荒げた。月玉が目を細め、吟味するように焔舞を見る。
「で、お前は符もそろえられず、何をしようって?」
試すような口調で月玉が訊いた。焔舞はぐっと息をつめる。
27、もう一つの時忘れの桜
「お前には関係のないことだ」
焔舞はそう言って背後の桜を振り返った。そこにある桜は普通では見ないほど大きい。今が春ならば相当見事な花が咲き誇るだろう。だが、桜の他には草木は少ない。花見の名所として人に知られる場所でもなかった。それは偏に、この桜が常にこの地に来れば見れるというわけではないからだろう。
「この桜は我に陰の気をわけ与えてくれた時忘れの桜だ。時を忘れ、人世と神代の狭間を彷徨う気を操る桜。符がないのなら、この桜にまた気をわけてくれるよう、頼めばいい。符の代わりに、泰山府君の器として耐えられる枝をひとつ、そして、桜自体にはこの地の守りとなってもらえばいい」
月玉はその言葉を聞きながら、無理だというようにまた目を細めた。
「その代償は、どうする?お前自身の気を返すのか?だが、それでは祭は行えない」
「いや、平気なはずだ。気を返しても、魄があれば」
「……勝算は五分五分だな。失敗すれば、この山、この地は泰山の死の穢れを負って死ぬだろうに」
月玉は責めるでもなく、ただ淡々と語る。焔舞は黙ってそれを聞いていた。
「……わかっている。だが、この地よりも何よりも、我は、智臣様になにも返せず、終わってしまうことを良しとはできない」
焔舞の瞳に堅い決意が現れる。それを見て取り、月玉はさっと身を翻した。
「その決意、随分自分勝手だが、我は気に入った」
にやりと笑って月玉はその場を後にした。
「……随分と用意周到な奴だ」
月玉が呟きながら歩みを進めた。この地より、などと言っていたが、あの場にはしっかりと清めの跡が残っていたし、桜にも守りの呪がかけられていた。焔舞の決意はあの地に最善を尽くした上でのことなのだろうと思われた。
暁成が帰宅すると、瑠樺は出かけていて、二匹の小犬が縁に面した長押(なげし)に腰かけ、茶を飲みながら饅頭を食べていた。
「ただいま。あれ、そんなお饅頭、うちにあったっけ?」
暁成が首を傾げつつ、二匹に尋ねた。
「おお、今帰ったか。……これか?これは今日の市で買ってもらったのじゃ」
「お前の分もあるが、瑠樺が帰ってから食べるといい」
二匹が口々に答える。もうすっかりこの邸の住人となり、我が物顔で長押に座る彼らに暁成が溜息を吐いた。
「そうだな。そういえば、瑠樺は出かけてるみたいだね」
「そうなんじゃ。三人で市に行ったのだが、なんでも瑠樺は物を落としたらしくてな、帰ってくるなり血相を変えてまた飛び出していったのじゃ」
28、忠告と桜
「月玉!どこに行ってたの!心配したじゃない!」
瑠樺は邸の前の通りの少し先の方で月玉を見つけ、慌てて声を掛けた。月玉は何か思案に暮れているようで、呼びかける瑠樺に気付いても心此処に在らずといった面持ちで立ち止まった。
「それはすまなかった。しかし、我は心配されるような童子ではないが」
「そんなこと言ったって、時々ふらっといなくなって何日も帰らない、ってこと、前にもあったでしょう?」
「迷子になったわけではないではないか」
「それでも心配は心配なのよ」
瑠樺が溜息交じりに言うと、月玉は「心配性な」と呟いた。
「それで、どうして急にいなくなったの?」
「……少し気になることがあっただけだ」
「……え?」
瑠樺が訊き返すと月玉がしまったという顔をする。
「おまえには関係ない」
「……そう」
月玉の言葉に素直に瑠樺が答えると、月玉が意外そうに目をしばたたかせた。
「やけに聞き分けが良い」
「だって、今回は本当に関係がなさそうだもの」
瑠樺がそう言って微笑む。
「……いつもは魂振の話だから話せ話せとせがむわけか」
月玉が深い溜息を吐いた。瑠樺は意外に強情なところが多く、月玉がうっかり魂振の話をしようものなら尽きぬ疑問をいつまでもぶつけてくるのだ。
「ああ、そうだ、行くことはないと思うが、比叡の山の方へは行かないほうが良いぞ」
「どうして?」
月玉の急な忠告に瑠樺は首を傾げる。
「……あの辺の少し寂れた山で、へたな術者が危なっかしい秘儀をやりかけている」
月玉が軽い口調で言うので納得しかけた瑠樺が目を丸くした。
「それ、神官の方とか陰陽寮の方は知ってるの!?」
「……」
月玉は首をすくめて軽く流そうとする。
「……それ、智臣とかに言った方が……」
「やめておけ。素人のやること。どうせ大した被害も出ない。困らせるだけだぞ」
「……そういうものかしら」
瑠樺は腑に落ちない様子ながらも頷いた。
「勝躬、お前はまだ、ここにある。決して、黄泉の霞に消えてなど……いない」
京の北嶺に連なる山々、その中の一つの麓にある大きな桜。草木も眠る丑三つ時にその太い枝の上で一人の少女が呟いた。
「お前の魂は取り戻してみせる。もうすぐ、あの小さな式が泰山府君を呼び出すだろう。そのときに、きっと黄泉路が開く。道教の神とはいえ、陰陽の道に取り入れられた儀式なのだから。日本の神も応(いら)えるだろう」
少女は不安を打ち砕くように、噛みしめるように呟いた。
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ここまで読んでくださってありがとうございました!
そしてどんどん珠緒の存在が空気に……しかし、実は重要人物!?
になるかどうかは今後の釣鐘草の気分次第でs・・・((殴
いえ、珠緒の存在はちゃんとまた主張します!ので、忘れないで上げてください。。。
というわけで、読んでくださった方、くれてる方、本当に感謝です!