ヒトラーお気に入りの建築家でナチス政権で軍需大臣を務めた、アルベルト・シュペーア。
本書は彼の回想録です。
中公文庫上下2巻。
まだ上巻の途中ですけど、面白いです。
第三帝国の建築について知る上でも、興味深い内容になってます。
訳者あとがきと文庫解説で、シュペーア評が真逆なのも目を引きます。
訳者の品田さんによれば、この回想録は「過ぎ去った愚かな時代を生き、好まずして政治と関連を持った一人の有能な建築家の良心の記録」だという。
更に、「一人の良心的なドイツ人によるナチス政権の担い手であった人々に対する痛烈な批判であり、同時に愚かな時代への反省の書でもある」とまでいう。
いや、シュペーアもナチス政権の担い手の一人なんだが。
ここまで手放しでシュペーアを讃えられると、違和感があります。
一方、文庫解説を書いた田野さんのシュペーア評は全く異なる。
シュペーアは「ナチズムの犯罪への関与を否定しながら、それを表向き批判・後悔してみせ(略)、“善きナチス”のイメージを演出」しているのであり、その語り口は「自分が行ったことを歪曲し、隠蔽しようとする歴史修正工作の一環」だと手厳しい。
「彼は本書でもその他の発言でも一貫して、ユダヤ人虐殺のことは何も知らなかった、アウシュヴィッツのことは聞いたこともないと証言しているが、それが真っ赤な嘘だったことが、多くの証拠によって裏付けられている。」
「1980年代以降の研究は様々な証拠にもとづいてシュペーアの汚れた実像を明らかにし、“善きナチス”のイメージを根本から突き崩している。」
『シュペーア回想録』は、戦後ドイツで出版された回想録の中で最も多く読まれたそう。
その理由について、訳者の品田さんは「本書が一人の良心的なドイツの市民の魂の記録でもあるから」と説明する。
一方、田野さんは、2017年にシュペーアの伝記を出版したブレヒトケンを引証に、「多くのドイツ人の免罪欲求と見事に一致していたから」と看破する。
訳者あとがきと解説で、こうも真逆のことが書かれているのも珍しい。