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動物病院に来院する理由(主訴)で「痒がる」は非常に多い。ヒトは、痒みを我慢して掻き壊しを予防することができるが、犬や猫は痒ければ掻き続ける。痒くて掻きむしり、皮膚が刺激され、炎症を強めるためさらに痒みが増すという悪循環(itch scratch cycle)に陥ってしまう。


痒みの原因とメカニズム

実は「痒い」のメカニズムに関しては十分に解明されていない。

もしあなたが蚊に刺されると、蚊の唾液が皮膚から浸入し「アレルギー劇場」の主役である肥満細胞からヒスタミンが放出される。飛び出たヒスタミンが痒みに特異的な知覚神経神経であるC線維を刺激し、その情報が大脳皮質に伝達されて「痒い」と感じる。

まるであなたが恋人に「ラブメール」を送信するように、ヒスタミンが大脳皮質に「痒みメール」を送信して痒みを現すのである。

ムヒなどの抗ヒスタミン剤を塗ると腫れが引いて痒くなくなるが、この流れで強引に説明しちゃうと抗ヒスタミン剤は「痒みメール」の電波を「圏外」にすることにより痒みメールを送信できませんでした」とパワーを発揮するのだろうが少し無理がある。

皮膚の乾燥(ドライスキン)も痒みの原因となる。東北新幹線が盛岡駅から八戸駅まで線路延長(96.6km)したようにドライスキンでは先ほど触れた知覚神経のC線維が表皮近くまで伸びることに加え皮膚中の一酸化窒素が増えるため痒みを伴なう。ドライスキンとは、皮膚バリア機能が低下し、皮膚の水分含有量が低下した状態で、外部環境から刺激物質を通過させやすくなる。
皮膚の細胞(セル)と細胞(セル)の間(ミドル)を埋めるセラミド(セル+ミドル=セラミド)や皮脂膜によるバリアでアレルゲンやバイキンマンなどの「不審人物」が侵入することを防御し、水分含有量を維持している。

犬の皮膚における保湿に関してセラミドがどれだけ関与しているかは明らかになっていないが、痒みに対して保湿剤が必要となるケースも多い。


アレルギー性皮膚炎のワンちゃんと生活するあなたに贈る言葉

ドラマ東京ラブストーリーで織田裕二演じる長尾完治のあだ名あるいは病気やけがなどが完全に治ることを「カンチ」といい、病気の症状が、一時的あるいは継続的に軽減した状態。または見かけ上消滅した状態を「寛解」という。

犬のアトピー性皮膚炎も「カンチ」が困難である病気の1つで、治療のゴールはあらゆる手段を使い痒みをコントロールし、最小限の薬物療法でQOLを保つことであり、ペットオーナーはれらのことを十分理解し「発想の転換」をする必要がある。

アトピー性皮膚炎で病変が見られる場所は4本の足の曲がった場所、顔面、耳、首から胸にかけて、四肢の指の間が一般的で外耳炎も頻繁にみられる症状である。通常あかくて痒みを伴い慢性化すると「象さんの皮膚」のようになってしまう。

はじめて症状がでる時期は1歳~3歳(6ヶ月未満あるいは7歳以上での発症は稀)が一般的で、初めは症状に季節性があるが後に通年性(季節によって増悪を繰り返す)となることが多い。摂取した食物抗原に対するアレルギー反応(俗にいう食事アレルギー)あるいはハウスダストに対してして反応している場合も通年性の症状を示す。食事アレルギーの病歴と臨床症状はアトピー性皮膚炎と非常に似ているので鑑別が非常に難しい。恥ずかしながら私も昔エビフライを食べて数分でムーンフェイスになったことがあるが、犬の場合はこのような即時型反応は示さず遅延型の反応(T細胞主体の反応)を示し、アトピー性皮膚炎の増悪因子として影響することが一般的である。

つまりチキンを与えてもすぐ蕁麻疹が出ないから「うちの子はチキンは大丈夫だ!」と判断することは間違っている。また慢性的に耳が痒くなるケースにおいても耳掃除をすることは補助的に効果的であるが、ある意味耳洗浄は火災現場で引火した隣の佐々木さん宅をばかりを消火活動するようなもので、アトピー性皮膚炎あるいは食物アレルギーに対する対策も検討することが出火元である加藤さん宅の消火活動に繋がるケースも多い。

次回予告 知っておくべきアレルギー性皮膚炎に対する具体的な対策を紹介 

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