帝国海軍最後の海戦・香住沖海戦 海防艦の戦い | 艦艇・船舶つれづれ

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旧帝国海軍および海上自衛隊の艦艇、海上保安庁の船艇、主に戦前の民間船舶を中心としたブログです。
「海軍艦艇つれづれ」からタイトルを変更しました。

今回は海防艦を取り上げてみます。

令和2年7月31日の神戸新聞NEXTに「終戦前日の海戦で艦撃沈 現れた年配の漁師たち、355人の命救う」という記事がありました。

 

これは昭和20年8月14日に行われた戦闘で、「香住沖海戦」とも呼ばれています。

 

帝国海軍側は「第十三号」海防艦と「第四十七号」海防艦の2隻が戦闘を行っています。

この2隻の海防艦は「丙型海防艦」と呼ばれた海防艦で、それまでの海防艦と比較し、小型化を推進し艦型もさらに簡略化、量産性に適した艦として建造された艦型です。

「第十三号」海防艦は、日本鋼管鶴見造船所で建造され昭和19年4月に竣工、「第四十七号」海防艦は、同じく日本鋼管鶴見造船所で建造され、昭和19年11月に竣工しています。

【要目】

 基準排水量:745トン、全長:67.50m、水線幅:8.40m、吃水:2.90m

 機関:艦本式23号乙8型ディーゼル機関×2、推進軸:2軸

 出力:1,900馬力、速力:16.5ノット、乗員数:125名

 兵装:12cm45口径単装高角砲×2、25mm三連装機銃×2、3式爆雷投射機×12、爆雷投下軌条×1、

     95式爆雷×120、22号電探×1、93式水中聴音機×1、93式水中探信儀×1

 ※引用:世界の艦船「日本海軍護衛艦艇史」増刊第45集、No.507、1996年2月、海人社、P.32

 

丙型海防艦の1隻 「第十七号」海防艦(引用:Wikipedia)

(unknown (不明) - 写真日本の軍艦第7巻p239, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5497833による)

 

「第十三号」海防艦は竣工後、フィリピン・レイテ島のオルモックへの輸送作戦に参加したほか、フィリピン方面への輸送船の護衛作戦に従事し、20年5月から7月にかけて日本海方面の釜山や青島からの輸送船の護衛作戦のあたっていました。

一方の「第四十七号」海防艦は、小笠原方面及び千島方面への輸送船の護衛作戦にあたっていました。

 

2隻は朝鮮半島の元山で編成されていた船団を護衛することとなり、兵庫・香住町(現・香美町)沖の日本海にて合流することとなりました。

 

昭和20年8月14日朝、「第四十七号」海防艦は、輸送船を護衛しながら香住港沖の集合地点付近を航行中の10時35分頃、付近で哨戒活動を行っていた米海軍潜水艦「トースク(USS Torsk, SS-423)」に発見され魚雷攻撃を受けます。

この攻撃に対して輸送船は後部甲板の砲を発射しながらこれを辛くも逃れることができました。「第四十七号」海防艦も爆雷で反撃を行いますが、「トースク」の更なる魚雷攻撃を受け艦尾が30度の角度で折れ曲がり沈没します。

 

正午頃に「第十三号」海防艦は香住沖の集合地点付近に到着しますが、そこには「第四十七号」海防艦の浮遊物と乗組員が漂流している状況がありました。

その「第十三号」海防艦も、米海軍潜水艦「トースク」の雷撃を受けます。1、2度目の攻撃はうまくかわすことができたものの3度目の攻撃で魚雷が後部に命中、船体が2つに折れ12時55分に沈没します。

 

2隻の沈没に際して、香住町の漁師たちは自分の身の危険を承知で小型漁船による救助のために一斉に出港します。

2隻の海防艦では56人が犠牲になりましたが、漁師たちの活躍により355人が救助されています。

 

この海戦が大東亜戦争における、そして帝国海軍の「最後の海戦」となり、「第十三号」と「第四十七号」の両海防艦は戦闘により沈没した最後の艦艇となりました。

 

新造時の「第十三号」海防艦

(引用:世界の艦船「日本海軍護衛艦艇史」増刊第45集、No.507、1996年2月、海人社、P.34)

 

 

2隻の海防艦を撃沈した米海軍潜水艦「トースク」は、昭和25年夏には地中海へ展開、昭和30年にはノーフォークを拠点とする第6潜水戦隊に配属され、大西洋に展開し頻繁にカリブ海へ巡航します。

昭和37年秋のキューバ危機では、キューバの封鎖を支援し哨戒を行っています。

「トースク」は昭和43年3月に予備役となり、ワシントン海軍工廠で予備役兵訓練任務に使用された後、昭和46年12月に除籍されます。

除籍後の「トースク」は昭和47年9月にメリーランド州に引き渡され、ボルチモアのインナー港で博物艦船として公開を開始されており、現在でもその姿を留めています。

 

米海軍潜水艦「トースク」(引用:Wikipedia)

https://www.flickr.com/people/sherseydc/ - https://www.flickr.com/photos/sherseydc/2469912984/ (cropped), CC 表示 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5100933による)

 

また、「第十三号」海防艦の軍艦旗は生存乗組員でつくる戦友会で受け継がれていましたが、平成28年に靖国神社へ奉納されています。

 

8月は大東亜戦争が終結した月ですが、最近ではNHKの一部のドキュメンタリーを除いてテレビで取り上げられることも少なくなりました。

ただ、忘れてはならない歴史として、政治に利用されることなく「真実」を語り継ぎたいものですね。

 

兵庫・香美町に設置されている香住沖海戦の「鎮魂碑」

(引用:一般財団法人 香住青年会議所 Facebook 2019年8月2日)

 

海戦の行われた香住沖を望む

(引用:一般財団法人 香住青年会議所 Facebook 2019年7月31日)