工具の話 #36【ネロブース③「ブース構造考察編」】 | Children's Beat

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模型製作に関する記事をていねいに綴っていきます。

前回は換気扇にフォーカスした記事を書きました。

それに組み合わせるは、ご存知ネロブースです。

こいつ↓
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銀色の箱の中に、手前上から奥側下方向へ向けて、斜めに仕切り板が溶接されています。




塗料のミストを100%捕集することを目指して開発されたネロブース、これを作ったのは、模型を趣味として嗜む空調設備のプロでした。

開発者が目指したのは、有圧換気扇を模型の屋内塗装用に特化したブースと組み合わせることによって、模型制作環境をより快適にすること。


ではそのネロブースの構造、一体どうなっているのでしょうか。
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横から見た断面図です。この図の上に空いている穴は、この先がシロッコファンへと繋がっていることを意味します。

噴射された塗料のうち、塗装中のパーツに当たらずに通過した一次エアーが奥の下のスリットから吸われ、パーツに当たった二次エアーは上のスリットから吸い込まれます。

この仕切り板の裏がチャンバーの役割を果たしていて、減圧されることで上下のスリットで均一にエアーを吸い込んでくれる構造になっています。

つまりこの状態になる。
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画面中央の緑色の矢印の向きは、この話では逆向きに作用すると考えます。
青い矢印が静圧になります。

ブース内部に設けられた仕切板が、ネロブースに接続されたシロッコファンの吸引力を物理的に制限するため、仕切られた空間が負圧状態となり、仕切板の隙間からより強力な吸引力を発生することになります。
シロッコファンの静圧を更にこのネロブースで増幅させ、絞った仕切り版とブース内壁との隙間から流速の上がった空気を引き抜くことにより、強力な吸引力を実現していると考えられます。

なおこれはカナルの憶測ですが、噴射された塗料の吹き返しによる溶剤臭(特に上の説明でいうところの二次エアー)は、この仕切り版が斜めに設置されていることで、仕切り版の角度に沿って斜め上に走っていき、その終点となる上側の隙間から、これまた効率よく排気されることを狙ってのこの構造なのではないか、と考えることもできるかもしれません。




こうして解析してみるに、構造そのものに真新しい技術が採用されているわけではありませんが、この商品が真に画期的なのは、「室内で模型の塗装をするという用途に特化して開発された初めての本格的な塗装ブース」という点にあると思います。



これまで、本格的な塗装ブースにおいては湿式と呼ばれるものが主流でしたが、これはあくまでも工業用であり、一般家庭に設置するにはコストと規模の両面からみて現実的とは言えませんでした。
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ベンチュリー型ブースの構造(アネスト岩田のウェブサイトより)


工業用ブースでは、水を用いてミストコレクト(浮遊ミストの集塵)を行うため、大気開放された排出口からは濾過された空気のみが排出される仕組みとなっています。



これまで家庭内における室内塗装環境の構築においては、乾式という言葉があるかはわかりませんが、フィルターを介して浮遊ミストを濾し取る、換気扇やシロッコファンを組み込んだ自作のブースか、市販されている各種メーカー製による簡便なファンブースを使うしか方法がありませんでした。


それらのブースは、もちろん室内での吹き付け塗装に的を絞って開発されており、きちんと目的を果たしますが、缶スプレーは吹き付けできなかったり、できても吹き返しが起きたりフィルターがすぐ目詰まりするなど、どうしてもキャパシティが限られてきた面もありました。

それに対してこのネロブースは、スプレー塗装も問題なくこなし、設置スペースの問題や価格の面等で制約は出るものの、それら既存の市販模型塗装用を謳うブースが苦手としてきた諸問題(特に溶剤臭に対して)をほとんどクリアしています。


これは、今の時代だからこそある程度の受注が見込めるとあって生まれた製品と言えるかもしれません。

恐らくは、同じように空調に詳しい人で過去にこのようなものを自作して使用していた人もいるかと思いますが、誰にでも手にできるものということでいえば、構造を見るに(依然として高価ではあるものの)このネロブースはやはり画期的であると言わざるを得ません。




ネロブースは受注生産方式をとっており、基本的にはツイッターからネロブース公式さんへ連絡を取り、数度のやりとりを経て設置環境やその他の条件等について個別に打ち合わせを重ねたのち、決定された仕様に基づき価格が提示され、入金後に製作、時期によりますが1週間〜10日前後で納品される流れとなります。



基本サイズは50×50×50センチのもので42,000円(税別・送料別)となり、中には横幅をさらに大きくとり、シロッコファンを上部に2連装といったような強力な特注品の製作も可能です。

昨今ではレンタル模型製作スペースを生業としたショップも登場してきており、そうした方面でのニーズも出てきているようですが、そうした商用のみならず、個人向けの販売もカバーしてくれているのは嬉しいことだと思います。



なおこの記事は、あくまでもカナルが個人的に有用と判断して導入を決めた経緯をもとに書いており、決して既存のタミヤやクレオス等の塗装ブースが劣っていると言いたいわけではありません。

設置環境は、模型を製作する人の数だけ存在し、毎回塗装のたびにブースを設置する必要がある人もいますから、選択肢の一つとしてこうしたものもある、という認識で記事を読んでいただければ幸いです。


次回、「設置編」でこの項、完結となります。
(レビュー記事は苦手…)