1話   →2話

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(3)
しばらく死んでしまった携帯を眺めて、──窓の外に視線を転じる。
今朝はやけに日差しが眩しい。
窓を開け放って、ベランダに出た。部屋にこもった熱気が窓から外へと逃げていく。
    ──いい天気だ。外でのんびりしたいくらいの。
無理だけど。
視線を地上に向けると、スーツ姿がちらほらと歩いている。
本来なら、俺もとっくに家を出ている時間。
しばらくぼけっと外を眺めていると、一人の女性が俺の居る棟へと向かってくるのが見えた。
男の子みたいなベリーショートの黒髪。華奢な肩がとても儚げに見える。
あの人、どっかで見たような──。
この八階からでは、さすがに顔まではわからない。
    ──ここの住人かな?
エントランスですれ違ったとかで見覚えがあるのかもしれない。
そのまま女性が棟へと歩いてくるのを眺め遣る。
──、と。
すい、と彼女が棟を見上げて。
「……あ」
目が合った……ような気がする。
    ──やばい?
羽は見えてないと思うけど──。
たぶん、隠れるべきだったんだろうと思う。
たとえ羽が見えてしまっていても、すぐに視界から消えてしまえば彼女だって見間違いだと思ったはずだ。
……けど、どういうわけか俺はその場に立ち尽くしたままで。
    ──やっぱ、見えてるのかな。
だって。彼女は俺から視線を逸らさないまま。
俺も、同じように彼女から視線を逸らせないまま。
    ──やっぱり、見覚えがある。
見覚えがあるどころか、とてもよく知っている誰か。……誰だ?
目を凝らす。大きな瞳に、小さな唇。
    ──あれは。
有希だ。でもどうして。今日は有希だって仕事のはず。
それにあの髪。どうして。
有希は茫然とした様子で俺を凝視したまま動かない。
心なしか、肩が震えているように見える。
「──有希!」
思わず声をかけた。
その声に、彼女はびくりと体を震わせて。
    ──怯えて、いる?
よく分からない。けれど俺には彼女が怯えているように見える。
「有希!」
何故、と思うより早くもう一度呼びかける。
それと同時。
有希は今度は見て取れるほど肩を震わせて。
    ──え。
逃げるように走り去った。


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あと一回分くらいかと。
ラストは明日の更新になりそうです。瞼が……。

1話はこちら

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(2)
「──はい、営業企画部です」
「あ、おはようございます。日向ですが、三課の蕪木課長をお願いいたします」
「承知いたしました、少々お待ちください」
軽く明るい電子音の保留。
蕪木課長は俺のいるチームを直轄してる、いわば直属の上司。
厳しい人だけれど声を荒げることは無く上手くチームを回す「出来た上司」で、おくびにも出しはしないが実はかなり尊敬している。
    ──あー、今日ミーティングがあるんだった。
……課長休ませてくれるよな、こんなんじゃ行きようがないっていうかスーツ着られないし。
「お電話代わりました、蕪木ですが」
「あ、課長おはようございます。日向ですが、今日ちょっと──」
「……ヒムカイ?」
「ええ、日向です」
聞き取れなかったのかな、俺滑舌悪いってよく言われるし。
「────」
電話の向こうで、課長はなぜか黙り込んでしまっている。どうしたんだろう。
「あの、課長?僕今日ちょっと体調が」
「悪戯電話なら余所でやってくれ」
ぶつん。
休みたいんですが、という俺の言葉を遮って吐き捨てるような課長の言葉。
ついで受話器を置く乱暴な音。
「…………は?」
俺はと言えば、ただ茫然。悪戯電話?……そんな風に聞こえたか?
それとも休むとかいうふざけたことは許さないっていう課長の怒りか?
いや、単純に掛け間違えただけか。掛け間違えの先が偶然俺の所属と同じ営業企画部で、偶然三課に蕪木っていう苗字の課長がいただけだ、うん。
    ──ええと。
とりあえず、もう一度電話するべきだ。休むんだからしっかりそのことは伝えて……謝り倒せば課長だって諦めてくれるはず。
携帯のメモリーを呼び出して、番号を間違えていないことをよく確認して、通話ボタンを押す。
「──はい、営業企画部です」
ワンコールで取次ぎの女の子が出る。完璧な応対。
「日向ですが、三課の蕪木課長をお願いします」
「……少々お待ちください。蕪木課長──」
少しの間と、明らかに曇った取次ぎの声。保留に切り替わる直前、課長に呼びかける声。
    ──なんだろう。なんか変だ。
保留の電子音がニ小節。すぐに取次ぎの女の子の声がした。
「申し訳ございません。蕪木はただいま席をはずしております」
嘘だ、さっき声をかけてたじゃないか。
なんだって自社の社員にそんな嘘を吐く?
「いや、蕪木課長に代わってもらえますか」
どういうわけか酷く苛々する。どうしたんだ、俺?
離席中ならこれ幸いと伝言を頼んでおけば良いだけじゃないか。
なんだってこんなに苛ついている?
「ですから蕪木はただいま──」
言い差した取次ぎの声が途切れる。空気の流れる気配。そして
「悪戯電話は余所でやれと言っただろう!二度とかけてくるな!!」
蕪木課長の怒声を最後に、再び電話は切れてしまう。
    ──どう、なってるんだ……?
混乱する。
電話の声は確かにあの蕪木課長で、掛け間違いというわけでもなくて。
落ち着かないままもう一度電話をかけると、今度は誰も出なかった。
呼び出し音のまま、それをしばらく聞いていると。
ぶつん。
発信の切れる音。
    ──わけが、わからない。


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もうちょっとだけ続くんぢゃ。

(1)

朝起きると、背中に羽が生えていた。
TVのバラエティとかで見かけるにわとりの羽みたいな、アレだ。
ちょっと力を入れてみると、ばさばさと動いた。
    ──なんだ、……これ。
茫然と部屋を見回して──見事に羽まみれになっている──、事態の把握に頭をフル回転させるが、当然何がなんだかよく分からないまま。
    ──落ち着け。これはアレだ、夢かなんかだ。人に羽が生えるはずがないんだし。
寝直したら何とかなるかとも考えたが、もう一度寝られるほど落ち着いてなんているわけがなく。
コーヒーでも淹れて気を落ち着かせようと台所へ立つ。
室内は見事なくらいに羽だらけ。
    ──掃除が大変だな、こりゃ。
どこかずれた方向に思考が動く。
……ああ、あしたは有希が来るんだった。長く伸ばしたつややかな黒髪の、俺の自慢の彼女。

ここ最近は忙しくてちっとも構ってなかったから、あしたは一緒に食事でもしようって約束してたんだ。
こんな部屋に呼んだら、あいつまた怒るからな。それもまた可愛いんだが、きちんと片付けとかないと──。
    ──これ、全部俺の羽なのかな。
散らばる羽を眺めて、ぼんやりと思う。
それにしては、多すぎるようにも思えた。
背中に羽を生やして「常識」を云々するのは、あまりにナンセンスだと思うが。
インスタントのコーヒーの利点は、飲みたいと思ったときにすぐ飲めること。
マグカップに淹れたコーヒーの香ばしい黒を見つめて、とりあえずもう一度考えてみた。
ひとつめ。背中の羽はなんなのか。
    ──羽、としか言いようがない。間近で見てみると田舎にいるにわとりの羽にやっぱり良く似ている。
ふたつめ。何故こんなものが生えているのか。
    ──わからない、としか言いようがない。原因不明。謎の奇病かなんかか?……ありえん。
みっつめ。で、どうする。
    ──とりあえず仕事……は、行けるわけないよな。
こんなものを背中に生やして仕事にでも行こうものなら世間は大騒ぎになってしまう。
というかそもそもマンションを出て五秒で捕獲されるんじゃないだろうか。
……参った。有給はもうほとんど残っていない。
正直あまり使いたくはないが……、仕方がない。
手付かずのままのカップをテーブルに置いて、枕元で充電器に繋いだままの携帯を取り上げた。


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続くです。

よー、いらっしゃい。
久しぶりだなぁ。兄ちゃん最近あんまり顔見せなかったじゃねえか、おっちゃん心配したんだぜ?
…へえ、バイトねぇ。最近の学生は大変だねえ全く。おう、塩だな。塩ラー一丁!
いや俺の息子もよう、兄ちゃんと同じくらいなんだけどよぉ。
店ぇ手伝えっつっても全然きかねーで毎日ダラダラしてやがるよ。時々思いっきり蹴っ飛ばしたくなるぜ、全く…。
え?ハハハわかってるよ。息子には息子の道があらぁね。別にこのラーメン屋継がせようなんて思っちゃいないさ。
でもまぁ、たまに兄ちゃんみたいな勤労学生を見ると少しは見習えって思うわな。そりゃーな。
なんか最近彼女と別れたらしくてなぁ。あ、息子の話な。
ちょくちょく家にも遊びに来たんだけどよう。
これがもう、可愛らしくってよう。娘ってこんなもんなんかねぇ、ってな。


…へい、塩ラーメンお待ちっ。
あとこれな。特製鶏唐サービスしといてやるよ。
しっかり喰って体力つけろよ、勤労少年。
へへ、よせやい。おだてたってこれ以上は出してやんねーよ。
こっちだってこれでメシ喰ってんだからな。
…はぁ。嫁に来てほしいくらいのいい娘さんだったんだよ。ホントに。
ウチのカミさんの若い頃にそっくりでなぁ…。
いけねぇ、思い出してたら湿っぽくなってきやがった。
おう、兄ちゃんはどうなんだい?何がじゃないよ。彼女とか居ないのかい?
へぇ、彼女は居ない…。勿体無いねぇ、俺の若い頃にそっくりないい男だってのに。
お?言ってるそばから携帯なってるじゃねぇか。へへ、彼女からじゃねぇのか?
へー、兄ちゃんいい携帯持ってんなぁ。高かったんじゃねぇか?
おっちゃんこう見えても携帯とかそういうハイテクなもん好きでなぁ。
ちょっと見せてくれよ、ソレ。…へぇ、KCの携帯にこんなんあったっけか?
え、まだ発売前のヤツ?なんでそんなもん持てるんだ?
…もらい物?メーカーに知り合いでも居んのかい?羨ましいねぇ。
しかしKCもなぁ。前は全然聞かねぇ名前だったけどよ、最近すげーよな。
実は出前で結構ちょくちょくKCのビルに入ったりするんだぜ、おっちゃん。
大抵深夜でなあ。最初に出前の注文が来たときだったかねえ。
深夜だって理由で断ろうとしたら倍額出すから出前してくれって言われたもんだから夜中に出前のチャリこいで行った訳よ。
したら、あれな。あっこの前ってなんか竜みたいなのの像が3体建ってるだろう?
あれ、夜中に見たら意外に怖いんだよなぁ。動き出しそうでよ。
後で社員に聞いてみたら動いたのを見たって人もいるらしーぜ。KC7不思議の一つなんだってよ。
あとは時々社長室から聞こえる謎のうめき声とか。
…おう、どうした兄ちゃん。顔青いぜ?大丈夫か?
そういえば、今の社長まだ高校生だろ?あれ、兄ちゃん前童実野高校だって言ってたよな。
社長サンと同じ学校てワケだ。…えぇ!?く、クラスメートなのかい!?
すげーなぁ。同じ学校にいるってだけですごいのにその上クラスメートなんてなぁ。
なあ、学校での社長ってどんな感じなんだ?
…あんまり学校に来ない、ねぇ。まーそりゃ当然だわな。なんつっても社長サンだ。
っと、電話だ。悪いちょっと出てくるからゆっくり喰っててくれよ。
──へい毎度、ラーメン「元」です!
──あぁ毎度どうも。出前ですか?今ちょっと人手が…。
──え?……え、えぇ、確かに居ますけど…。
──は?…はぁ。はぁ。ちょ、ちょっと待ってて貰えますかい?
兄ちゃん、悪いけどちょっと頼まれてくんねぇか?
いや、今の電話。KCからの出前なんだけどよ。
今店に俺しか居なくてよ、断るしかねぇんだけど…。
あのな。なんか、「そこに居る犬に持ってこさせろ、高校生が一人来ているだろう」って…。
ど、どうしたんだい兄ちゃん、手ぇ震えてるぜ?
心当たりでも、あんのかい?…なんか、良い心当たりでもなさそうだけどよ。
…やっぱり客に出前頼むわけにもいかねぇやな。悪い、忘れてくんな。
え?持ってってくれるのか?
あぁ、確かにKCはお得意さんだから断ったらちょっと厳しいんだけどよ。
…ほんとにいいのか、兄ちゃん?
そうか。助かる、恩にきるぜ!
うんじゃーちょっと待っててくれるか?すぐ作るからよ。
そーか、兄ちゃんバイトってもしかしてKCのバイトか?
知り合いが居るってんだろ?
ははは、んな渋い顔するもんじゃないよ。男前が台無しになっちまうってもんだ。
…じゃん、じゃん、じゃん、っと。ほい、塩ラー一丁!
えっと、じゃー岡持ちこれな。
こぼさない様に気をつけてくれよ。
おっ、兄ちゃん岡持ちがサマになってるじゃねーか。さては経験アリだな?
それじゃあ細けー注意なんかも用なしだな。
あぁ、出前の侘びに今日の分はタダにしといてやるよ。
じゃー頼んだぜ。
開発室の皆さんにもよろしく言っといてくれや。
おう、じゃあまたな!
──へいらっしゃい!5名様ですかい?奥のテーブルへどうぞーっ!


* * *


…ふう。やっと一日終わったか。
この仕込み終わったら帰るかね。…あー、あっつい風呂に入りてえ…。
おっと、こんな時間に電話かよ。
──へい毎度、ラーメン「元」です。
──あぁ、さっきのKCの。毎度お世話になっておりやす。
──今日の分ですかい?岡持ちと器は次の時にでも引き取らせて貰いますよ。
──…は?ちょ、ちょっと待ってください。それは、どういう…?
──本当ですかい!?ウチみたいなしみったれたラーメン屋が、そちらの指定業者に…?
──いえいえ、ウチとしちゃあそりゃ是非ともお受けしたい話ですけど…。
──え、へえ。わかりました。明日の午後4時ですね?へえ、へえ…。
──あ、はいわかりました。では、明日…。
……………………。
一体、どー言う事なんだ??
今の電話の人、今回の請求は社長名義で送っておけって…。
まさか、海馬社長直々の注文だったってわけか?
あの兄ちゃんのことも知ってるみたいだったよな。
…あの兄ちゃん、ただの勤労少年だとばかり思ってたが…。
何モンだったんだ?あの兄ちゃん…。


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二年ほど前に書くだけ書いてどこにも公開してなかった雑文です。
捨てるのも惜しいのでとりあえず貼り。


もうかれこれ二年ほど、何にも書いておらず。
あれほどダイスキだった海賊や遊戯王ですら、書こうと思えるネタが浮かんでこないほどの萌え要素不足。
とりあえず、しばらくは逆裁と復活!かなぁ、、、とか思いつつ。


……書けるのか、なあ。