「ただいまーっ」と言うなり
ローファーを
ぽかんぽかんと脱ぎ捨て
リビングに続く廊下を
きったない靴下のままに
つーっっとすべるようにして進み
冷蔵庫に頭を突っ込み
ペットボトルのままにお茶を飲む。
そして一言、おなかが空いた。
靴をそろえなさい
スリッパはきなさい
靴下ぬぎなさい
冷蔵庫はあけっぱなしにしない
コップに入れて飲みなさい
あーその前にその前に
手を洗いなさい!もうっ。
こんな毎日。

きしんちゃんの汚部屋に
転がるペットボトルは
空のまま放置されて2週目に入る。
この子の親はだれだろう?
わたしです。しょぼん。
イタリアから帰国後
きしんちゃんは
渡航前より熱心に
イタリアのガイドブックを読み
世界史を熱心に勉強している。
期末試験の結果は
まだ謎のままだが
答えがわかる喜びを
空欄を埋めていく快感を
ごはんを食べながら
わたしに聞かせていたりする。
随分お勉強をするようになった。
きらいは嫌いらしいんだけど。
旅行中、ホテルの部屋で
スーツケースを
空けるたび、娘のそれに
自分とは違う個性を感じていた。
わたしは、きっちりかっちり
寸分歪みなく荷物をケースに
入れるタイプだ。
理路整然とした荷造りをする。
一方彼女は
スーツを開けば
どかすかと荷物を全部出し
出立時には
ぽかんぽかんと荷物を突っ込み
蓋をする。
あなたもうちょっと丁寧に
整理して入れなさいよとなどと
言ってみれば
わたしの準備が整った
スーツケースを指さし
閉じてしまえば
結果は同じ、目的は達成だと
言い張っていた。
そらそうだ。
先日娘はわたしに
小さな小さな嘘をついた。
わたしは烈火のごとく
それに怒り、しばらく彼女と
くちを聞かずにいた。
ずっとずっとわたしのほうが
親に大きな嘘をついた。
罪のある嘘を
とても理路整然と。
彼女はとってもおおらかで
大雑把で罪のない嘘をつくから
少し笑ってしまうのだけど
大まじめに、大まじめに
わたしは親として叱る。
それにしても
ペットボトルはいつお片づけ
してくれるんだろうか。
女子教育とはまことに
その範囲は広く、
内容は細かく
複雑でそして難しい。


