祈るまえに、恋をして。 -14ページ目

祈るまえに、恋をして。

ときどきぽつりと更新。

待ち合わせをして
人波の中に
リキシさんの姿を見つける瞬間
わたしはなんだかいつも
うれしかったりする。

わたしの性格には
あちらこちらに欠陥があるのに
わたしによく惚れてくれたなぁーとか

あんなに日々キレーなおねぇさんに囲まれているのに
わたしをよく見つけてくれたなぁーとか
そんなことをあたまん中で
思っていたりするのね。

でもね、大人だから
「あっ、デブっこっち!」
くらいな表現で手をあげて。
自分をわなわな押さえるのよ。

ほんとはね、ぎゅっとしたいのだけど。
ほんとはね、手をぶんぶん振りながら
ずっと大事にするよーと
言ってみたくなるんだけど。





月曜日の午後のデパートは
人影もまばらで
それも紳士用雑貨のコーナー
なーんてことになれば、
目立つのは
デパートのスタッフばかり。

リキシさんは
だいたい半年に一度
どうかな・・・もっと短いスパンかな
そんなペースで
持っている下着類のすべてを
一新していくお人だ。

その度にわたしは
銀座にある
このデパートにやってきて
男性用の下着や
ビジネス用の靴下、
ハンカチなんぞ
お買い物をする。

月曜日も。

急に帰国したリキシさんに
「靴下買っといて、
会議が終わったら、連絡するよ
合流するからと」いう言葉を受け。
そんな待ち合わせの時間。

普段なら独占状態の売り場に
この日はわたしと目的を同じにする
男性客がひとり。
熱心に、それはとても熱心に
靴下を選んでいる。

わたしが1番目の陳列に見入れば
彼は2番目の陳列を。
うまい具合にぶつかりもぜず
互いに邪魔することなく
見知らぬ者同士、わたしたち男女は
その小さな靴下売場を
とても至近距離で
くるくると回っていた。

わたしがリキシに履かせようと
10足ほど靴下を握りしめた頃、
ふと見ればその20代半ばの青年は
商品である“物”を
ものすごーく、
ものすーっごく丁寧に扱う様。
その姿に、ちょっと目を奪われるくらい。

商品の前にしゃがみこんだ彼は
よほどのことがない限り商品に触らない。
じぃーっとお行儀よく見て、
たまさか手に取ったものは
ゆっくりそーっと元の場所に
戻していく。

どれ一つ“選ぶ”という風でもない。
でも“買わない”という風でもない。
とても静かな吟味。
その佇まいが妙に謙虚。


買わないのに、商品に
やたらと触る人が
おぞましく苦手なわたしは
彼がとってもいい人に見えてしまう。

デニムに白いワイシャツというイデタチは
気負っている風もなく。
丁寧に履き続けている
ミズノのランバードには
このわたしを後ずさりさせる迫力すらある。

不思議な空気をまとった青年と
この浮かれた感のある中年女のわたし。

それにしても
わたしたちふたりは、
なかなか“お会計”に行かないから
デパートの店員さんに
怪訝な表情が浮かんでくる。
握りしめた靴下でわたしのお手々も
汗でしっとりするくらい。

はやくリキシさん来ないかなー。
とメールするわたし。

彼は携帯電話を時々取り出し、
誰かとぼそぼそとお話をしている。
「もう終わる?」とか「今ここにいる」とか。
「こられる?」とか。

あっお互いここで待ち合わせているのね。

そう思っていたらリキシさん
とっても優雅にのしっのしっと登場。

そして彼の待ち人も現れた。
美しい人を見つけた瞬間の
青年の瞳がとってもうれしそう。
小鳥が囁き合うようにお買いものの相談をして。
そしてとっても丁寧にその女性を
エスコートしているのだ。

良かったねぇって感じ。
その美しい人が君を見つけてくれて。
君をちゃんと選んでくれて
よかったねーっって、なんだか
その時強く思ったわけ。



任務を終えて帰宅した私。
とある女性誌を手に取って。

そうあの青年の妻は雑誌“プレシャス”の
表紙を飾っていらっしゃる。
結婚おめでとうと銘打ったインタビュー記事。
読んでいなかったわと見開いてみれば


『彼の素晴らしいところは
少ないものとしかつきあわないこと。
自分の好きなものとしかつきあわないから
ワードロープなんて1ラックしかないんですよ。笑
それは生き方とも似ていて
ひとつのものとぐーっと深く付き合って次に行く感じ』

彼の妻が答えていた。

なるほど。
デパートでの彼の姿を想い。
確かにそんな青年なんだろうと納得。

そして、その姿を“素晴らしい”と
感じてくれる女性に
彼がちゃんと出会えていることが
素敵なことだなと思った次第。


「これおっさんの足か?」ってくらい
美しい足型模型の間から
はじめまして。こんにちは。
と青年、松山ケンイチさんに

そう心の中でご挨拶した
月曜日の待ち合わせの間に。

もし、まだ私が働いていたら
あの地震が起きた時
きっとクライアントと
打ち合わせなんぞしていて

キリリっとした
お顔と口調で
安全確保なんか呼びかけ

1時間はかかるであろう「みんなの納得」
を導き出す会議を打ち切るべく
納得できなくても
これが結論だ、聞いとけ!
とばかりな話をし
とっとと帰途に努めたであろう。

と思うのだ。そんな女だった。
そう、すっごくキリリとね。
へっちゃらって感じでね。


4月11日。
あの大震災から一か月。
病院と病院の合間をぬって
このすっかり弱虫毛虫なわたしは
そろーりそろーりと
新宿三丁目のデパートに
向かっていましたよ。
本当は3月11日、あの大震災の日
行くつもりだったのだけどね。

各アパレルブランドが凌ぎを削る
その激戦デパートで
いつもお世話になっている
ショップの女の子が
『店長』に昇進し
それはめでたいと
“お祝い購入”を
約束をしていたんですね。

だけどそれきり。
あの地震で東京はマヒし
わたしの体もマヒし
一か月後にやっとお出かけ。

そうそう、この時も
リキシは遠いどこかにいて
「ねぇ、地震こない?」
「こないよー」の
会話をしていたりしたのだ。

それでも、なんだか
ぞわぞわして
大きなバックに
帰宅困難を想定し
スニーカーとチョコレートを
忍ばせて出かけたわたし。。


デパートは別世界。
着くなり、余震への恐怖も忘れ
お財布握りしめ、そうそう
ここでもわたしは鼻の穴を
大きくしていたかもね。

試着も終わり、
「これいただくわぁ」と
高らかに宣言する頃か?

あれ?揺れはじめた?
みんなの手が止まる頃
ガタガタとパーテーションは音をたて
ハンガーにかかった洋服が揺れている。
ちょっと焦ったような顔の男性社員が
せわしなく動いて、お客様に
安全確保のアナウンスが流れたりする。

そう、その日各地に最大余震が
来てしまったのだ。
私にはあのデパートで。

このわたしったら、
店長の腕をつかみ

「恐いーっつ恐いーっつ
揺れてるーーー!!!」

そらそうよ、地震だもんっ
て話なんだけど
デパートの壁のない
大きなフロアが揺れる時
それはまるで、
ツイストするように揺れるのだ。

これ、床抜けますぅぅぅ?

恐がるわたしの腕を店長自ら
握っていてくれたんだっけ?

「大丈夫ですよ。」
「揺れてますが、この前の地震より
小さいですからね」
落ち着いたお声で、語る彼女の
そのお顔はきりりっ。そしてきっぱり。

この前まで26歳の
かわいいおねーちゃんだったのに。
いつの間にこんな
きりりとカッコいい
頼れる大人の女になっていたのん。
こんな時、働く女はかっこいいわ。

それにしてもどーっよっ。
わたし、ちっとも
きりりとしてないや。
いつの間に、わたしったら
こわいぃーこわいぃーと叫べる
お気楽な中年になったのかしらん。



余震もおさまるころ
わたしは遠い国にいるリキシに
「地震こないって言ったのに
もうぅぅ来たじゃん!(怒)」
と悪態をつき

興奮したわたしは
なぜか揺れている間に
予定外の大物アイテムを買いに走り
そう、買いものだけは
弱虫毛虫ではないのだ。


大丈夫か?わたし。

わたしがそのデパートに向かうと
決めた両日、地震があったものだから
もうあんたは行くのやめなさいと
出張するリキシから5月8日付で
「新宿3丁目デパート禁止令」が
出されてしまった。


んが、ブログで親しくなった
あの方も、今月からこの輝く
デパートに入社されたと聞いている。
きっときりりっなはず。
かっこいいな。
おめでとうございます。

禁止令が解けたら
リキシと一緒に
買いものに行こう。

あなたさん、まだ買うんですか?と
言われても
買いものしている間は
地震、恐くないんだから
いーの、いーの。
わたしは、これで。
$祈るまえに、恋をして。


リキシさんは
いつものことで
また世界のどこかを
渡り歩いている。

今回も外出先から
成田を経由するも
入国しないまま、
そのまんま反対側の
次の国にお出かけした。

出発の日は
許される限り
東京のどこかで
見送っている。

いってらっさい、と。




あの大きな地震があった日も
リキシさんは関西にいた。
それからというもの
なんだか心細く
続く余震が怖くって
外出も恐る恐る。

そう、余震が怖いわたしは
決まって外出する時
リキシにむかって
しんっけんっな顔で

「ね、地震こない?」

と聞くのだ。これは
「どうかなー?」とか
「わかんないなぁー」なんて
答えたら大変っなことになる。

「大丈夫、こないよ」
という返答をリキシに強要し、
鼻の穴を大きくして
その一歩を踏み出し
お出かけするわたし。


こんな風に彼が出張していても
その場所で会議中でも
恐くなるとメールで

「地震こない?大丈夫?」

と聞いて、大丈夫!という
お返事をちんまり待っている。

先日リキシに

「Vertd'eauさんは弱虫、ケムシだね」

とからかわれた。

わたしは弱虫だけど
毛虫じゃない。


わたしは弱虫だけど
成田エクスプレスに向かうリキシに
バイバイをしたら、
ぐずぐずしたりしない。

案外、目の前に流れる
雑多なことにすぐ集中してしまい
“今日の冷蔵庫の中身”とか
“あの服やっぱ買っちゃおう”とか
夢中になって考えたりしているのだ。

余震があったって
こっから歩いて帰ってやる!
と心の中では
想っていたりする。

わたしは弱虫、毛虫じゃあ ない。

祈るまえに、恋をして。

もうここは出てしまったんだって。
ところで、ヨワムシ、ケムシってなに?