東京丸の内ピーポー | 祈るまえに、恋をして。

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ときどきぽつりと更新。


皇居正面に位置する東京駅丸の内駅舎。
旅情を感じさせる趣ある姿は
日本の中央駅として相応しい風格。

祈るまえに、恋をして。
※画像拝借

私は由緒正しい『ここ』で、や・ら・か・し・た。


駅だもの、別れのシーンは美しい。

私はその日、イベント管理の仕事を済ませ、
このレンガのお城の中で、クライアントを接待していた。

先方のキーマンを連れ出し、飲みの席を設けるのは常識。
「次のお仕事チョウダーネー」
と飲ませる、飲ませる。飲まされる。

私だって何日もまともに寝ていない。
そろそろ「帰すかっ」ってあたりでお会計を
済ませ、私は、東京駅丸の内口改札に立った。

終電に急ぐサラリーマンの行く手を塞ぎ
クライアントとの別れの儀式。
「本日はありがとうございました」
と、深々とお辞儀するわたし。

クライアントと私の上司は改札の向こうで
のんきに手なんか振っている。
「接待の時だけ出てくんなよな~上司ィ~」
自分の眉間に皺がよるのを押さえながら
彼らが姿を消すコーナー寸前で、
にこやかにもう一度、お辞儀。

「さようならー♪」をした。

さよならのはずだった。
さよならはちゃんとした。

それなのに、さっき別れたばかりの上司から電話だ。

「おれっって、帰って大丈夫?なんか手伝うことある?」

「ざけんなょ。」

そう叫んだかどうか・・・。

するとどうだろう。
手に持っていた携帯電話はふわりと宙に舞う。
大きな支柱に囲まれたこの丸の内駅舎が
ぐらんぐらんと回り始め、私はバレリーナのごとく
回転し始める。足元は沼のように沈んでいく。

あらら?あらら?
目の前に上司の顔がある。
誰だ?私の周りにたくさん人が集まってきた。
たくさんの人が、私を見ている。

「私のことなんかほっといてー」
「大丈夫だからほっといてー」
悲しくないのに、たくさんの涙が出て
息を吸いたいのに、息もたえだえ。

私は、あの由緒正しき東京駅丸の内口で
大の字になって倒れ、意味不明な言葉を連呼し
意識を失い、救急車に乗せられた。
目が覚めたのは、名も知らぬ病院の診察室だった。

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目が冷めたのは、午前3時。
見上げた天井の蛍光灯で、ここは病院と
わかったけれど、私どうしちゃったのかしら?

車いすのようなものに座った私。
尋常じゃないのは、
私には幾重にも毛布が巻かれ、さらにロープで
ぐるぐる巻きになっていたこと。
動けませんって。

「過呼吸ですね、ストレスが急激にかかることありました?」

医師は、ぐるぐる巻きの私に問いかける。

「かなり仕事がきつくて、このロープもきつくて・・・」

解放されたのは、うっすら空気が軽くなる午前4時。
病院の廊下に出たら上司がいた。

「部長!どうしたんですか?帰ったんじゃないんですか?」
(どうしたもこうしたもないんだが・・・。
携帯電話の落ちる音で異変を感じてホームから踵を返したらしい)

「タクシー代なくってさぁ」
キッツぅー。
しぶしぶ二万円渡した私。

病院を出たら、東京の空気は秋色になっていた。
静けさを取り戻した救急車の横をすりぬけ、
少しだけ襟元が寒くて、首をすくめて帰った、JR。