宮城谷昌光さんの『草原の風』上、中、下三巻を一気読みした。
またまた宮城谷ワールドにはまってしまった。
ところが宮城谷ワールドが何かと説明しようとしてもうまく言い表せない。
宮城谷さんの小説が好きなのは登場人物の「生きる姿勢」と「言葉の良さ」ではない
かと思う。
それでは『草原の風』の中のどこか特に気に入ったところを紹介しようとして見直しても
適当なところがない。
本の帯に引用してあった部分を多少増やして紹介します。
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・・・つぶやいた李通は、父がつねづねいっていたことを憶いだした。
「劉氏復た興り、李氏は輔と為らん」
この予言は、図讖から抽いたことばであろうが、くりかえすことによって、父の李守のことばと
なった。劉氏は王朝を再興し、李氏が皇帝の輔佐となる。予言はそういう内容である。ついに
李通はこの予言に自家と一門の命運を賭して、劉(えん※)の弟の劉秀を招いて、挙兵をうな
がしたのである。
密談のさなか、李通は劉秀の骨格のよさを感じた。体躯のことだけではない。精神の骨格、
つぶさにいえば、ことばの骨格ということである。
政治にしろ、事業にしろ、ことばがすべてであるといってよい。善政とは、良いことばの政治
である。企業においては、ことばを大切にする者が成功する。
―文叔のことばは、文(飾り)と質が適度にとけあっている。
そう感じた李通は、劉秀の本質をみぬき、劉秀が実現しうる未来を、冷静に、しかも正確に
予見したといってよい。
※は糸へんに「寅」 本の帯は「密談」から「成功する」まで
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読売オンラインに作者のことばが紹介されていたので引用させていただきます。
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「中国で革命を起こして皇帝の位に即(つ)いた英雄に魅力のない人はいない。そのなかでも
特に私が好きなのは後漢王朝を樹立した光武帝かもしれない。そう考えたのは三十年も前で
あり、まさか光武帝を小説に書く時がくるとは想(おも)ってもみなかった。光武帝にはユーモア
がある。しかもかれの創業は颯爽(さっそう)としており、王朝を確立したあとにも温雅さがあっ
た。三国時代に比肩する群雄割拠の時代の頂点にのぼりつめた光武帝の事蹟(じせき)を
追って、読者とともに楽しみたい。」
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同じく読売オンラインに「刊行完結インタビュー 歴史小説は美しくあれ」もUPされていました。
引用させていただきます。
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まだ読者の少なかった中国古代を小説に書こうと努力していた30代の頃、苦難の末に
約2000年前、後漢王朝を開いた劉秀と出会った。以来、その「恐れや不安に耐え何もない
所に道を作った」人生に共感してきた。三十数年を経て今回、前漢の劉邦や三国志の間に
埋もれ、見過ごされてきた名君を掘り起こした。
「天下を取った後も残虐にならず、これほど臣下に優しかった人は歴代の皇帝にもいない。
優れた人物を自分の小説で知ってもらうのは本当にうれしいんです」。兄を殺した人物を許
すなど、権力を得ても報復しなかった劉秀のような例は、日本の戦国期でも見あたらない
という。
小説では、貧しい家で農業に親しんで育った劉秀が、都への留学を経て一族の起こした
革命に参加し、幾多の闘いに勝利していく姿が描かれる。留学時代から「現在の宅配便の
走りのような仕事を編み出したアイデアマン」で、100万の大軍を少人数で撃退するなど、
常識の裏をつく戦術も天才的。その強さは「人間だけでなく植物を見ていたこと」と考える。
つまり、土と語り、天の気候を探って作物の成育を願った農業人としての学びを、社会に
応用したことだ。
劉秀の周りに磁石に引き寄せられるように名将が集まり、何度も窮地に陥る天下統一を
助けていく過程も印象的だ。「彼は、ウソをつかず臣下や人民への思いやりを忘れなかった。
そこに人を引き付けた魅力がある」。今の時代にも必要なリーダー像なのだろう。新聞連載
中には東日本大震災が起きたが、「言葉の不思議な力は、たった一行の文章でも人を励ま
す」との思いを込め書き続けた。
理想的な歴史・時代小説の形はとの問いにはこう答えた。「歴史小説は美しくないといけ
ない。死語になりつつある言葉や忘れられた武将を復活させるなど方法はいろいろあるが、
現代小説では持ち得ない様式美や言語美がいる。そのためにはまず、主人公がさっそうと
していなければ」
October 12, 2012