劇団スターダスト日本 「あしれる」 @イカロスの森
イケメンから3枚目まで、とにかく幅広い俳優がそろっていて、しかもみなさん若いという、可能性にあふれた劇団。昨年「妹さんをボクにください」という新作を観たのをきっかけにファンになった。
ここでは前原氏が本を書き、演出するようだが、彼の才能が半端ではない。
前回の「妹さんをボクにください」は、出てくる役者は3人なのに、役柄は6人。しかも全員が「兄」と「妹」を演じ分けるという、エキサイティングきわまる本だった。特に、そのうちの一人がなかなか良い2枚目で、最初に妹役の方で出てきたため、「あ、女優一人入れているんだ」と思ったほどである。
やはり、美形の俳優は男装しても女装してもサマになるので得だ。
さらに内容も役者のイリハケなども完璧に計算できていなければ書けない本で、しかもこの時の公演はかなりシンプルな舞台で上演しながら、見事に成功させていた。
ということもあり、今回はとても期待していた。
前回と違い、大道具も非常に凝っている。
舞台は父と娘が二人で営む、ひなびた町のカレー屋さん。
高校生の娘には絵の才能があるらしい。プロポーズを決めようとする、主人公の幼馴染とその彼女のドタバタ、家出娘が転がり込んできた次には、透明人間がやってくる。さらに、話もいろいろと転がってゆき……。
まさかの
上演時間 160分。
うん。ド長編をほぼほぼ矛盾なくまとめあげた体力というか、器の大きさは驚異的。
大作を書く前原氏の力量も大したもので、いずれも称賛に値する。
ただし、完全新作、しかも40人入れば満席なキャパの小屋でこれは、はっきりいって長すぎる。
ブレヒト、チェーホフ、シェイクスピアあたりだったら3時間弱は覚悟するが、新作で150分は普通の人は予想していないと思うので、チラシに書いておいた方が親切であろう……と劇団側にも伝えた。
ここまでガチッたもの出してくる劇団、好きだけど。
ちょっとガチり過ぎじゃないだろうか。
「透明人間」という存在を通じて、「人の死」とか、「コミュニケーション」とか、そういったものを考えさせる芝居だったように思う。
人は、二度死ぬ。
肉体が死んだとき、そして、人々の記憶から消えたとき。
そして、「死ぬ」の対義語は「生まれる」、あるいは「生きる」。
では、肉体が死なずとも「心」が死んでしまったとき。
あるいは、生きているのに、人々から忘れられたとき。
この状態は果たして「生きている」と言えるのだろうか。
いや、言えない。
けれど、死んでいるとも言えない。
そのなんとも定義しがたい状態を、あえて言葉で示すなら、「透明人間」なのかもしれない。
とすれば、案外この世には、半ば「透明人間」と化しつつある人は、思っているより多いのではないだろうか。一見人情味あふれるコメディの様態を取りながら、ふとそんなことを考えたくなるような苦い状況が、徐々に明らかになっていく。
それだけに、男優陣の演技の「しすぎ」が気になった。
特に、惜しかったのは「相田君」。
役の中でも特に深い背景(東日本大震災?)を持っているようだったので、もう少し抑えた演技があればより光ったのではないかと思う。面白いもので、演者が露骨に気合を入れれば入れるほど、客席には割り引いて伝わるものらしい(もっとも、気合を入れ過ぎた演技が大半で、抑えた演技が出来る役者は地元劇団ではかなり少ないのだが)。
対照的に、女優陣がとても美しかった。
とくにすみれさんは、あのままうまく歳を重ねることが出来れば、チェーホフに出てくる本物のヒロインを演じることが出来るのではないだろうか。久しぶりに佇まいのきれいな若手女優を見た、という感想である(何もしなくても普通に美しい若手女優は少ない)。
小春、愛美、麗子もそれぞれに美しい、可愛いといった魅力が存分に発揮されていたと思う。
愛美は元気な役回りだが、それでいてうるさくなく、とてもいいバランスだった。
主役の雄一は、自然に演じていたと思う。
難しい役どころだったし、ところどころ「泣き」や「笑い」の演技が過剰に見られた部分はあったが、それでも一番抑制が利いていた。主役でありながら、名脇役のようでもあり、新喜劇などでいう「マワシ」に近い魅力があった。意外と、そういうポジションで演じられる役者は少ないので、大切にしてほしいと思う。
本のテーマは非常に良かったし、ぜひあちこちでの再演を期したいところなのだが、上演時間がかなりネックになるだろう。ちょうど、脚本を販売していたので1部購入してみた。
かなり大きなどんでん返しが後半にあったのだが、そこにつながる伏線が前半にあった記憶がなく、「面白いから許せるけど、いきなりそれは作劇的に反則すぎやしないか?」と思った為、それの検証をしてやろうという意地悪な思惑。説明台詞やちょっとした小芝居を削って、内容を絞り込んで、構成を磨く余地はまだまだあるように感じた。もちろん、それで本代返せ、とは思わない。当たり前の話だが。
新作は、発表することに、何物にも代えがたい価値がある。
そして音楽でも、書籍でも、改訂版というのはあるものだ。クラシック音楽でも出版されてから、結構豪快に校訂改訂しまくって、18XX版、18YY版なんてものがあったりするのだから、そんなつもりで気軽に校訂して、「新装版」として出してしまえばいいと思う。
そちらが成功すれば、今私の手元にある今回手に入れた初演分はプレミアがつくかもしれないからな。
テーマが本当に、良い。
だから、100分から120分程度に凝縮したバージョンの再演を、ぜひ期待したいと思う。