即興掌編「いつも側にある想い出が」 | Venus_Aionion STORY

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即興短編小説という新たなスタイルを模索中。
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by project zero


  今日、ペロが死んでしまった。

  目の見えない僕をいつも助けてくれたペロ。

  いつも側にいてくれて、僕の手を引っ張るでもなく、寄り添う様に僕を導いてくれた。
  初めて家に来た時はオドオドとした雰囲気が空気で伝わってきた。
  毛はとてもフワフワしていて、お腹は柔らかく、まるでその体温は子守唄の様に心地が良かった。
  一緒に遊ぶ時も、周りに危ない物がないか先に調べてくれたり、夜の空気を感じる頃にはきちんと家路につかせてくれたり。
  ペロは僕がしたい事を先読みしてくれる、まるでエスパーみたいなパートナーだった。

  こんな事もあった。
  ペロと公園に向かう途中、急に飛び出して来た車に驚いて僕は公園に行きたくなくなり、道にしゃがみ込んで駄々をこねた。
  日が暮れる匂いを感じるまで、ペロは僕の側でそっと寄り添っていてくれた。
  ペロはとても暖かくて、泣き疲れた僕はそのまま寝てしまった。
  きっとあの時はペロもどうしていいか分からなかったろうな。
  でも、ただただ僕の側に居てくれたんだ。

  いつもの様に公園で散歩してるとき、うららかな陽気に身を任せて、ベンチで居眠りをしていたんだ。
  目を覚ますとペロの匂いが消えていた事に気が付き、僕は不安の影に飲まれた。
  いくら呼んでもペロは返事を返してくれない。
  もしかしたら僕の事が嫌いになってしまったのだろうか。
  僕は途方に暮れたまま、夜の空気を感じるまでベンチに座っていた。
 
  僕を迎えに来てくれた父に聞くと、ペロの死体はベンチのすぐそばの池で見つかったらしい。
  ペロと過ごした時間はとても掛け替えのない物になった。

  もう、あの時間は二度と戻ってこない。


  僕の楽しかった思い出を、また一つ増やしたんだ。


「あなた、あの子の悪い癖なんとかならないかしら」

「俺からもキツく言っておくよ」

「これで三人目よ。いくら新しい人を雇ってもきりがないわ」