書評を書いてと言われて書いて記事になったのがこれ。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140919-00002070-zeiricom-soci


そして原稿として渡したのが以下。どこがどうカットされて、編集されるか参考になりました(笑)



著者が少し不格好になったと言っていますが、一粒で二度おいしい良書「長く稼ぐ会社だけがやっているあたりまえの経営」をご紹介します。



「経営における運と実力の考察」など経営学者をしのぐような著者の膨大な知識からの引用を多数用いた当たり前の経営の大事さを説く前半と、「節税の常識が変わる」という超実務的な後半とに分けられます。



後半に書かれている部分を先に解説したい。これは岡本さんのデビュー作でありベストセラーになった10年ほど前の本「会社にお金が残らない本当の理由」の現代バージョンだ。



これまでの節税は法人を設立し、年間に稼ぎ出す利益を予測、そしてその利益が限りなくゼロに近づくような役員報酬を設定。さらに役員報酬を家族で分散することで累進課税を防ぐというのが基本的な手法でした。



著者は10年前に役員報酬はただの数字であり、法人個人を一体と考えて節税を組み立てる方法を提唱しました。私も当時大いに賛同したものです。



そして現在の流れはどうなっているのか。簡単に言えば法人税減税、高額個人所得税増税です。この流れに沿えば、役員報酬は少なめにし、法人に利益を残して内部留保を厚くする方が節税の常識になってくるでしょう。



これを25年という長期の視点で、社会保険料や退職金などの変数も考慮して最も手元にお金が残るパターンをシミュレーションしたのが本書の後半部分の見どころです。しかし、あまりに数字の羅列が続くため、専門家でもない限りは途中で寝ることになるでしょう。



節税の常識が変わってきていることを体感し、自社に当てはめて大枠でどのパターンが有利だなと理解すれば、その内容を顧問税理士にぶつけてみるという現実的方法がおススメです。



私が興味をそそられたのはその後半部分以上に経営について様々な引用を元に語る前半部分。



経営の世界ではブルーオーシャン戦略やプラットホーム戦略など、とかく新しい何かが求められる傾向にある。経営者は常に不安であるため、確実に成功できる「何か」を求めたがるものです。



しかし、経営について言えばすでにほとんどのことは言い尽くされており、成功する人、企業ほど革新的な手法などではなく当たり前のことを当たり前に、愚直にやり続けているというのが4000社を超える会社設立をサポートしてきた私の感想だ。



この本はその当たり前の経営を行うことの重要性を繰り返し説いている。



著者はビジネスを「運の影響度合い」で分けることを提案しています。例えば中小企業の場合、創業期は運の影響度は高いはずです。そこから技術力を高め、顧客名簿を増やしながら実力の影響度を高めていきます。しかし、中にはいつまでも実力を高めることをせず、運に頼った経営を続ける人がいます。さらに、多少ついた実力段階で規模拡大を狙い運の世界へ飛び立つ経営を選択してしまう人もいる。著者はこのことを「恐怖のV字ターン」と呼んでいます。人材の育成も追いつかないまま売上を上げるために出店を繰り返す。戦争に例えれば兵站を無視した戦線拡大であり、戦前の日本軍の失敗と同じです。最近のすき家の失敗などはまさにこの典型例ではないでしょうか。



著者は経営者のやるべきことは売上利益を増やすことではなく、それよりも年々実力をつけていって運の影響を減らしていくことだといい、そして当たり前の積み重ね、兵站の重要性を説きます。私も同意するところで、経営はリスクを減らしていくことが大事だと思っています。



しかし、少し反論もあります。



それはこの考え方を重視しすぎると会社の発展は心配になるなという点。起業して一気に行くときは兵站すら無視し、ある程度の成果を挙げてから兵站を気にし出す会社の方が10年後の安定度は高いとこれまでの経験から感じるためです。



著者の言うように兵站を無視した戦線拡大は失敗の法則の一つであることは確かですが、それでもなお行くという決断が吉と出ることがあるのもまた経営。運の世界へあえて飛び出し、戦線が拡大しすぎないうちにバランスを取るわけです。



結局はこのバランス感覚を経営者がどの程度持っているかが最も重要ではないかと思っています。



バランスを「崩す→取る→崩す→取る」というバランス感覚。ややこしいですがこの感覚の優れた人が会社を長期的に伸ばすのではないでしょうか。



それでもビジネス書において、著者のような保守的思考を教えてくれる人はほとんどいません。逆の思考のビジネス書の方が圧倒的に多いですから、自分の思考のバランスを取るという意味でも、この著者の考え方を知っておいて損はないので、ぜひ多くの起業家、企業家に読んで欲しいです。

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