漆原「ツヨシくんはもやしっ子だな。男は筋肉だよ、筋肉つけなきゃ。あと、何かスポーツをやったほうがいいね。厳しい指導と不条理をくぐり抜けた者のみが、社会的に成功するんだ」
ツヨシ「ぼくは普段、スポーツはやらないんです」
漆原「なんでだ」
ツヨシ「ぼくはピアノ弾くんです」
漆原「男のクセにピアノなんて、女々しい野郎だな」
漆原「野球部か、柔道部に入れよ。ヨット部もいい。とことん身体をいじめ抜くといい」
ツヨシ「……」
あすか「漆原先生、よけいなお世話です。ツヨシくんを変な体育会系に勧誘しないで下さい。久しぶりに来たと思ったら、要らないことを」
漆原「オレはこのもやしっ子に、一人前の男らしい男になってほしくて言っている」
あすか「筋肉なら充分ついてますよ。ピアニストは筋肉をすごく使うんです。とっくに一人前です、ツヨシくんは今まで演奏活動で苦労してきているんで、邪魔しないで下さい」
漆原「分かってない。ひょろひょろしたヤツにいい女がついてくると思うかい?」
あすか「脳筋男にはバイオニック・ウーマンがお似合いです。ピアニストにはとっくに可愛いガールフレンドがいます。漆原先生も彼女作ったら?再就職はうまくいったの?」
漆原「うーん……」
あすか「ツヨシくん、次はカーネギー・ホールで演奏して、あの脳筋先生を見返してやろう」
ツヨシ「うわ、大きく出たなぁ。あそこは世界的音楽家でないと演奏なんてさせてもらえないよ」
あすか「どれぐらい世界的?」
ツヨシ「……ビートルズぐらいだよ」
================
ニューヨークで、ルビンシュタインが通行人に「カーネギー・ホールヘはどうやって行けばいいですか」と道を訊かれ、「練習して、練習して、練習すること」と返答したのは有名な話です。ツヨシくんはまだそこまでではないですが、もと体育の先生にピアノをバカにされたことに、あすかっちはツヨシくん以上に腹を立てました。漆原先生はまだ再就職できていなかったのです。









