あすか「今は昔、若くてとても貧しい侍夫婦がいた。無職で生活は苦しかったが大変仲がよかった。ある時、地方長官になった人が侍を赴任する国へ連れて行きたいと声を掛けた」
アンバー(右)「素敵!耐乏生活じゃなくなるのね」
クリスタル(左)「苦しくても支え合っていればいいことあるのね」
あすか「ところが、遠くの国に行くには、それなりの支度ってものがある。今の奥さんでは旅支度する収入も蓄えもない。侍は泣く泣く奥さんを捨てて、財力のある女性を見つけて再婚した」
アンバー「え?自分勝手」
あすか「うん。平安時代はまだこういうことが当たり前だったんだ。夫婦であることを保証する法律なんてなかったからね。侍は新しい奥さんと遠くの国に行ったんだけど、寝ても覚めても頭の中は前の奥さんのことでいっぱい。貧困というだけで別れなければならなかったことが辛くてたまらなかった。やがて任期が終わり、侍は旅装のままで前妻のところへ走った。家はあばら屋になって、ただ独り、別れた奥さんだけがいつもの場所に座っていた」
アンバー「やっぱり反省したのね」
クリスタル「再会できてよかったー」
あすか「侍の顔を見た奥さんは『いつ帰ってきたの?』と責める様子もなく嬉しそうに言った。侍は『また一緒に暮らそう。荷物は明日。昔の使用人達も呼び戻そう、それだけ言いたくて』と言い、奥さんと積もる話をした。奥さんは本当に嬉しそうだった。二人とも固く抱きしめ合った。そして明け方まで語り合った」
アンバー「これからは旦那がしっかり支えないとね」
クリスタル「そうそう、奥さん苦労したもんね。でも再婚した奥さんのほうはどうするつもりかしら」
あすか「朝になって日の光を浴びた侍は驚いた。自分が抱きしめていた奥さんは干からびたミイラだった。侍は恐怖でいっぱいになった。しげしげと見ても奥さんのミイラだった。慌てて服を着た侍は、身分を隠して隣の家に駆け込み、あの家はどういうことだと聞いた。隣人は『奥さんが旦那に捨てられショックで病気になり、誰にも看取られず死んでしまったが、そのままになっている』と返事した」
クリスタル「奥さんって幽霊になっていたのね」
アンバー「侍が許せないわ。奥さんもそんなになってもまだ待ち続けたなんて」
クリスタル「でも、会えたからもう思い残すことはなくなったのね」
あすか「奥さんは侍を恨んでいなかったんだ。使用人もいなくなって、独りで亡くなってしまったけど、それでももう一度旦那に会いたかったんだろう」
アンバー「侍はきっと、お金持ちの奥さんの元へ戻ったわね。ずるいんだから」
クリスタル「そうね。でも前の奥さんは、魂だけになっても旦那さんを愛していたのね」
あすか「そういうわけだから、ふたりとも、貧乏しちゃダメだよ。自分で働いて食べていくか、経済的にしっかりした男性を見つけな。この奥さんみたいにならないように」
アンバー「ならないわ。私は資格職に就くの」
クリスタル「奥さん可哀想よね」
あすか「今でも似たようなことはあるけどね。貧困者にはセーフティネットが必要なんだよ。昔も今も、格差社会なんだよね。今昔物語集が出た頃、お侍の身分は低かった。具体的にいつというのは分からないけど、貴族中心の社会だったからね」
クリスタル「きっと紫式部の頃もそうだったのね」
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久しぶりに、あすかっちの国語の時間です。
「今昔物語集」の手持ちのネタがほとんどなくなりました。
今日は本当は、藤原道綱母の「蜻蛉日記」でもやろうかなと読み返したんですが、長い上に暗くて、やめました……。
結局、短編集の「今昔物語」になりましたがもう、ほとんど語り尽くしてしまいました。わずかに残っているお下品ネタじゃ、アンバーやクリスタルのためにならないでしょうし。