久美子(左)「やだ、うたた寝しちゃった」
テルコ(右)「……久美子」
久美子(左)「お母さん!」
あすか(右)「え?テルコ伯母さん?帰ってきたの?」
テルコ「ゴメンね久美子」
久美子「お母さん、私を捨てて男と逃げたでしょう。あの会社役員の人どうしたの?」
テルコ「脱税で逮捕されたの。私はもう、あの家に帰れないのよ」
久美子「来ないで!あたしやあすかっち売り飛ばそうとしたくせに」
テルコ「許してちょうだい、あの人の指示だったのよ」
久美子「絶対許さない。あのあといろんなことあって、今はまだここに厄介になってるけど、お母さんの顔も見たくない。出ていって」
テルコ(右)「出て行くったって、私達が住んでた家、なくなって畑になってたわ。どういうこと?」
久美子(左)「お祖母ちゃんが取り壊して、最初は月極駐車場にしようとしたんだけど、みんな自分の車庫持ってて来なかったから畑にしたのよ。更地にしておくと税金かかるからお花畑にしたの。お祖母ちゃんのいつもの気まぐれよ」
百鬼丸(右)「(あすかちゃん、久美子ちゃんとテルコ伯母さんがコワイですぅ、がうがう)」
あすか(左)「大丈夫だよ、百鬼丸」
あすか「久美子ちゃん」
久美子「あすかっちは黙ってて。もうお母さんだと思わない」
テルコ「……しばらくお祖母ちゃんのところにいるわ。じゃあね」
久美子(左)「あたしは、ああ言うしかないし、もうお母さんの顔見たくない。許せない」
あすか(右)「久美子ちゃん」
久美子「あたしはすでに、『向こう』の小さい劇団で歌ってるもの。お母さんになんて観てもらいたくない」
久美子「お母さんに一緒に向こうになんて行きたいなんて思わない」
久美子「お母さんともう一度銀座で美味しいもの食べたいなんて思わない」
あすか「だね」
久美子「お母さんに、お母さんに、うっ、うっ」
あすか「そうだね」
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本心が言えない久美子ちゃん。
どんなにひどいことをされても、この世でたったひとりのお母さん。
どうしても、どうしても、報われないもどかしい思い。
もう戻らない、楽しかった日々。
参考文献:藤子・F・不二雄/小学館てんとう虫コミックス「ドラえもん77巻『帰ってきたドラえもん』
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