あすか「了くん、お帰り。今回ずいぶん長くファンタジーキャッスルにいたんだね」
了「あ、ああ」
あすか「どうしたの?顔色が悪い」
了「放っ……いや、実は鹿狩りしてたんだ」
あすか「裏の巨大冷蔵庫の中身、あれ全部、鹿?なんであんなに!この年末に必要ないよ」
了「ほら、ファンタジーキャッスルはまだ秋だろ。鹿狩りやってて、やたらオレの邪魔してくる奴がいたんで、何だって言ったら鹿狩りの勝負しろって……」
あすか「きみらしくないな」
了「そいつあすかっちのことを侮辱したんだ。それでカッとなって」
了「食べるためじゃなく男のプライドのためにたくさん撃った。子鹿もいたと思う。結果はオレの勝ちだったけど、あいつも相当ムダに狩った。すげえ負けず嫌いな奴で、いつも誰かと自分比べて上でなきゃ気が済まないって奴だったから……そんなやつに乗せられたオレはバカだ。そんなオレに狩られた鹿も可哀想だ」
あすか「もう、嘆いてもしょうがないだろ」
あすか「今からアルフレッドときみで鹿を捌いてくれ。レオン先生にも応援頼もう。鹿肉は動画で売ろう。動画は私が撮ってアップする。革はなめして向こうで売ってくれ」
了「なんでいつも競争しちまうんだろうなあ、オレ達は。命を無駄にして」
あすか「んー、猫だって捕まえた獲物で遊ぶさ」
あすか「ソイツとはもう口利くな。きみに勝っていたくてしょうがないって執着は気持ち悪い」
了「……ああ」
あすか(手前)「さあ、行こうぜ」
了(奥)「オレ、もう鹿狩りやめる」
あすか「やめる必要はない。必要なときに必要な数だけ狩ればいいだけだよ」
百鬼丸(奥)「(辛いですね、了くん。ビーちゃん先輩、猟犬として何かアドバイスはないですか)」
ビーちゃん(手前)「かれは過ちを犯したけれど、ぼくは鹿肉は食べたいワン」
百鬼丸「(アドバイスになってないです)」
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了くんの鹿は10分で完売しました。
あすかっちの予想に反して、年末に鹿鍋を食べてみたいという声は多く、鹿の2/3は向こうで、もう1/3は日本全国で売れました。発送は大変でしたがみんなの協力で何とか納得の結果になりました。
革は向こうで手袋になり、売り上げは親を失った子鹿のための施設に寄付されました。
発送後、みんなで向こうで鹿鍋を食べました。了くんだけが泣いていました。
了くんのにがい経験でした。
※「向こう」とはファンタジーキャッスルのことです。現実の日本では通常、鑑札のない鹿は売ってはいけません。トラックで屠札場に持っていきます。日本では許可なく鹿狩りは出来ません。
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