あすか「今日は、私が尊敬してる、ある日本人医師の話をしよう。かれは宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』に自らをたとえ、遠い異国でたくさんの人を救ってきた猛者だった」
クリスタル(右)「なーんだ、お姫様じゃないんだ」
アンバー(左)「すごい!便利な日本の暮らしを捨てて、外国の困っている人たちを治療して回るなんて」
あすか「かれは医師の仕事だけでなく、一から勉強して、井戸を掘って飲み水を確保したり、用水路作ったり、砂漠に木を植え、緑に変えた。多言語を操り、現地の人々と友となった。困っている人とも困っていない人とも交流した。かれの名声は高まり、やがてかれの救援活動に人々が加わった」
あすか「そうしてある日、かれは凶弾に斃れた。有名人になりたくて有名人を狙うのはよくある話だ。かれは73歳で亡くなったが、みんなのヒーローとなった。現地では男の子が生まれると彼の名をつけたりする親も現れた。かれの思いは、今も人々の中に生き続けている」
アンバー「そうなんだ……」
あすか「私、もし生まれ変わったら男の人になって、かれみたいに、いろんな国を回るお医者さんになりたいな。ヒーローになれなくても、大変な人たちと一緒に、泣いたり笑ったりしたいよ」
あすか「かれは決して困ってる人を助けてやるとか救ってやるとか、そういう医師ではなかった。寄り添い、語り合い、対等に、活動し続けた。私も生まれ変わったらそんな医者になりたい」
その夜。
アインシュタイン先生「あのね、藤村博士が持ち込んだお薬を使ったベトナム帰還兵たちで、まだ亡くなった人ってひとりもいないんだよ。みんな若い姿で都市歩いてたり山奥にこもってたりしてるけど元気だから。だからあすかちゃんが生まれ変わって医者にってのは……」
あすか「そっか、結局私は私以外の者にはなれないのか。このまま私として生きていくよ……」
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アンバーは成長してのち、困っている人たちのためのお医者さんとなり、世界を回る医師団体「国境なき医師団」のリーダーのうちのひとりとなりました。
ずっと先の話ではありますが、あすかっちの願いは、アンバーに受け継がれたのでした。
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